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ばたん、と重々しい扉が閉まる音がする。
「……行ったよ」
それと同時に神白は誰もいない空間で答える。
すると彼女の目の前にはサングラスを掛けた喪服姿の男性が現れた。
「先程はありがとうございます。思いの外彼はこちら側に近づいていましたね、危うく私の存在がバレそうでした」
「そんな御託はいい」
「……おやおや、これは手厳しい」
アメリカンドラマみたいな素振りで男が首を竦めた。
興味ないと神白が無視するが気にせずに男は話を進めた。
「どうでした彼は?」
「悠馬は普通の人」
男から質問されるが神白は間髪入れずに答えた。
傍から見れば意味の分からない問いかけ。しかし、彼女らにとっては何よりも重要だった。
「だからこれ以上あの人に関わらないで」
「駄目ですよ。まだ覚醒していないだけかも知れませんし。それに彼は貴方の能力が効かなかったのでしょう? 事を決めるには早計です」
彼の言葉に神白は思わず舌を打つ。
これ以上無関係の人を巻き込みたくなかった。しかも相手が自分を助けてくれた人なら尚更だ。
「それにしても良くあの場所から逃げ出すことができましたね……正直驚きました」
「……偶々」
「それでもですよ。本当なら裏切り者は排除する予定でしたが……彼がいるなら話は別ですね」
「あの人は関係ないって言っている!」
嬉々として話している男に向かって神白は感情を露わにした。
彼は能力者ではない。だからこれ以上関わるのは止めて欲しい。
その様子を見た男は意外そうな顔で彼女を眺めた。
「貴方にそんな感情が残っていたとは。これは驚きです」
「………ッ」
そんなの少しも思っていないのに、と神白は嫌悪に支配される。
悪態をつこうとした神白だったが言葉を飲み込んだ。
「その通りです。貴方が私に勝てるはずなんてないのですから。出過ぎた行動は自分の首を苦しめますよ」
そう、やろうと思えば男は直ぐにでも蹂躙できる。
神白も重々承知していたので行動を移さなかったのだ。
「おお、ちゃんと我慢できましたね。偉いです」
嬉々とした表情で座り込み、彼女の頭を撫でながら男は耳元で囁いた。
神白は彼の手を振り払わず、黙って彼に従っている。
何の変化も感じられなかったのか、男は撫でるのを止めると徐に立ち上がった。
「取りあえず……彼のことは様子を見ましょう。彼の能力が覚醒したなら我々が確保する。しなかったら貴方を連れて帰る。話はそれからでいいでしょう」
「あの人は違う……違う」
神白は小さな声で否定の言葉を連呼する。
しかし、男の耳には何一つも届いていなかった。
「ではまた。次会うときはこちら側にいるのを望んでいます」
そう言葉を残すと男は姿を消した。まるで最初からそこに存在していなかったように。
自分だけになった部屋で神白は涙をこらえながら唇を噛んだ。
「……誰か助けて」
答える人はいない。
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