1章3節 絶望はまだ早く、

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1章3節 絶望はまだ早く、

 ♦  奇妙な夜から一週間。  あの夜にすれ違った男の言葉を僕はずっと考えていた。  警察のホームページやSNSで不審者情報を調べたけど収穫無し。  ついでに神白ちゃんの情報も探したが……結局何も分からず。普通なら行方不明の通知がされる頃合いなのに手がかりになるものは何一つ見つからなかった。  今日は新聞紙の記事から調べることにした。場所は――――図書館。  図書館には新聞紙が年別にファイリングされている。過去に遡っていけば何かしら手がかりが見つかるかもしれない。  今日はバイトもない。外へ行くには丁度良かった。 「今日は出かけてくるよ。お昼は冷蔵庫に入れておいたから」  朝ご飯を食べている神白ちゃんに趣旨を誤魔化しながら伝える。彼女には申し訳ないけど知らない方がいいだろう。  すると彼女は箸を置くと真剣な顔で僕を見つめた。 「今日は出かけちゃ駄目」  珍しく彼女の口から否定の言葉が出る。いつもなら余程のことがない限り頷くのだが今回は違ったみたいだ。 「大丈夫だって。明日も講義はないから」 「でも家にいた方がいい。疲れているんでしょ」 「それはそうだけど……」  確かに神白ちゃんの言う通り疲れているのは本当。だけど自分より彼女の方が優先したい。なるべくなら彼女の意思を汲み取りたい所だけどこればっかりは仕方がない。 「心配してくれるのは嬉しいけど平気だって。遅くまで残るつもりはないし夕方までには帰るから。じゃあ行ってくるね」 「……あ」  一方的に伝えると家の扉を開け、外に出る。……ちょっと身勝手だったかな。  彼女には申し訳ないことをした、と少しだけ後悔する。帰りに甘い物でも買っていこう。そうすれば許してくれるはず……多分。  自転車を進めながらそんなことを考えた。  
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