1章3節 絶望はまだ早く、

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「……見つからなかった」  自転車を押しながら帰り道を歩く。長時間椅子に座っていたせいかその足取りは重く、苦痛だった。  結局数時間費やして探してみたものの何も情報は得られず。唯々時間を浪費しただけだった。 「こんなことなら家に居た方が良かったな。お土産も買う必要なかったし」  籠に入っているケーキの箱を睨みながらため息交じりに呟く。流石に一個500円は高い。  とぼとぼと歩き続ける。アパートに着いた頃には太陽が沈みかかっていた。 「あれ? 部屋の電気が点いていない」  外から見える窓からは明かりが灯っておらず真っ暗だった。……もう寝ちゃったのか?  疑問に思いながら扉をゆっくり開ける。起こすと悪いからね。 「ただい――――え?」  手から提げていた箱がするりと落ちた。ぐしゃり、とケーキが箱の中で潰れる音が部屋に響く。  部屋には誰もいない。居るべきはずの少女が居なくなっていた。  部屋の中に入ると机に一通の手紙が置いてあった。  丁重に封蝋されていたそれをゆっくり開ける。そこに書いてあったのは。  『預かった。助けたいなら港の倉庫へ待っている』  内容は不明瞭。だけど書いてある意味は直ぐに理解できた。 「――――ッ!」  読み終わった瞬間身体が熱くなったのが分かる。気が付けば外へ駆け出し、自転車を漕いでいた。坂も平坦も登りも、信号だろうが無視してとばす。  手紙に書いているのが本当だったらこれを書いた人物は彼女について知っているということになる。それに僕の部屋に住んでいるのも。  それに当てはまる人物を頭の中を巡らせるが一人しかいない。  脳裏に浮かぶのはあの日の夜に会った人物。 「ハァ……ハァ……待っていろよ」  足を止めずに回し続ける。色々気になるが迷いはなかった。
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