2人が本棚に入れています
本棚に追加
「……一人で大丈夫かな、あの子」
神白ちゃんを家に置き、大学へ行った僕は講義中にも関わらず彼女のことを考えていた。
不真面目に思うかもしれないがそもそもこの講義を聴いている人はごくわずか。興味がないのか教室に居る人はスマホをいじっているか、隣の席の人と話しているかに分かれていた。
「――――ということで今日は宗教の問題についてお話しました。新生活が始まった皆さんはこういった問題に関わらないよう気をつけてくださいね」
彼女について考えているといつの間にか初老の教授が講義の締めを終えていた。それと同時に次の講義へ行くのか、他の生徒達は教室を続々と後にしていた。
僕は次の講義を選択していない。さて、早く家に帰らないと。
「おう悠馬。今日は遅刻しなかったんだな」
「……何だ、青人か」
教室を出ようとしたら突然誰かに肩を叩かれる。少しだけ驚いたが顔が分かると一瞬で元のテンションに戻った。
僕の肩を叩いた奴の名前は酒井青人。名前の通り髪の毛に青のメッシュを入れ、派手なスカジャンを着ている。僕とは正反対の人物なのに何故か好かれていた。
「さっきの上重ちゃん先生の講義聞いていたか? 中々面白かったよな!」
「ごめん、あんまり聞いていなかった。何話していたの?」
興奮する青人を尻目に言葉を返す。
彼が話している上重ちゃん先生とは先程行っていた世界史の講義を受け持っている教授のことだ。此処の生徒からは上重ちゃん先生と愛称で呼ばれている。
かなりの高年齢でそろそろ退職すると風の噂で聞いたんだけど……この人の講義は面白いのでその話を聞いたときは少し残念だったのを思い出す。
それより青人が真面目に上重教授の講義を受けていたことに驚いた。青人はは複数のバイトを入れているせいか、大学では毎日のように寝ている。
いつもなら色々問い詰めたいけど今はくだんの件の方が重要だ。
「おいおい、ちゃんと聞いていた方がいいぞ? ま、俺が言えたことじゃないけどな」
人の気も知らずに話しかける青人。……まあ理由を知らないから仕方がないんだけど。
「……それよりは話は何?」
彼が悪くないことは重々承知しているがつい八つ当たりのような言い方をしてしまう。
「あ、忘れていた」
……そう思ったが前言撤回。絶対に謝るもんか。
「ハハハ、そんな顔するなって!」
「誰のせいだよ、誰の」
顔に出ていたのか、宥めるように青人が僕の頭をこねくり回した。
こいつの方が少し背が高いので誤魔化すときにはいつもこうしてくる。
「おい止めろ、お前の話聞かないからな!」
「そんなこと言うなって。……話に戻るぞ、お前は神を信じているか?」
青人がら不意に話を戻すと小声で僕の耳元で囁いた。って、突然何てことを言い出すんだこいつは。ついに頭でも壊れたか?
「……馬鹿なの? 神様なんている訳ないだろ。今どきの小学生でも信じている子の方が少ないぞ」
「そうだよなー、俺もそう思う。けどさっきの講義でそんな話をしていたからさ。つい気になったんだよな」
ケラケラと笑う青人を見てため息をつきながらも頭の中で考える。
小さい頃に『神様』という存在が居ると聞いた。
だけど、あることがきっかけで信じなくなったけど……何だっけ。
考えても思い出せない。頭に黒い靄がかかっているような……うん、これ以上は面倒くさいから止めよう。
「そんなことを言う為に態々話しかけたの? 僕は用事があるからさっさと帰るよ」
肩に置かれている腕を外すと改めて青人に言い返す。家にいる神白ちゃんがどうしているかも気になるし、今は余計な時間を使いたくない。
「何? 万年暇人のお前が用事だと? ……こりゃ明日は台風か雷雨だな」
「いいから黙れ」
膝蹴りをした僕は何も悪くないはずだ。
最初のコメントを投稿しよう!