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1章2節 束の間の平穏は、
神白ちゃんと暮らすようになって数日後。
半ば強制的に始まった生活だが思ったよりも苦ではなかった。
生活していく上で基本的な――お風呂とかは先に決めていたから特に何も起きないし、彼女はこちらに干渉してくることはなくいつも窓から外の景色を見ていた。
「面白いの?」と一度聞いたけど良く分からないのか首を傾げていた。
そんなこんなで今までと同じ生活に違いはない。
だけど一つだけ変わったものがあった。
「悠馬、今日の夜ご飯はチーズトースト?」
「それは朝食べただろ、夜はオムライスだよ。もうすぐできるから手を洗ってきてね」
「ん。もう洗った」
彼女はどうだ、と言わんばかりに両手を僕の目の前に見せびらかした。
そう、食事の時間だ。
彼女のおかげといえばいいのか、僕の食生活は劇的に変わった。今までは自分一人だったから栄養面を考えずに貪ってきたけどそうはいかない。
というよりも彼女がカップ麺とかコンビニの弁当を嫌がったからこうせざるを得なかった。なんでも人工物の味がするとか。そりゃ確かに添加物が含まれていて体に悪いのは分かるけど……生憎馬鹿舌なのでどう違うか分からないけど嫌がるなら仕方がない。
考え事していると不意に誰かの視線を感じた。
ハッとして顔を上げると神白ちゃんがこっちを覗いていた。……どうやら失敗は許さないとでも言っているみたいだ。最初の頃は味付けに良く失敗して一人虚しく残飯処理をしたのが懐かしい。
慌てて料理に意識を戻す。……良かった、焦げていない。
フライパンで焼いたオムレツもどきを電子レンジで作っておいたチキンライスに乗せる。形は少し不格好だが火加減は完璧だ。
完成したオムライスを机に運ぶ。彼女は準備完了といった顔で座っていた。
「早く、早く」
「慌てないで。オムライスは逃げないんだからさ」
出会った当初はあんなに無口だったのに今では普通に僕と話している。僕に気を許してくれた感じがして嬉しい。
「いただきます」
同時に手を合わせてから彼女と共に食事をする。
小さく切り分けた卵を口に運んでいる神白ちゃんを眺めた。少し前なら誰かと食事をするなんて思いもしなかった。
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