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「……倒さぬ。誰も倒さぬ」
あっけにとられた。倒さないということは、あのルシヴィルが自らの意思で王の座を誰かに譲るとでも思っているのか。詳しい説明を求める。
「木刀は武器ではなく盾だ。僕はね、たとえそれがどんなに悪い者だとしても、誰かを傷つけるために自分の力を揮わぬ。これはジイの教えでもあるのだ」
「しかし、やはりそれはどう見ても武器でございます。武器を武器として使う気がないのなら、木刀ではなく、大きくて硬い盾を持ったほうがよっぽど護身になります」
「木刀を持つからこそ意味があるのだ。今ではもう僕の噂が市井にも広がっているはずだ――魔王を倒すために木刀で修行をしている人族がいる――ってね。この木刀を持っていれば力に自信のない魔族は襲ってこないだろう。無駄な戦いをしなくてすむ。間違って傷つけてしまう可能性のある者を減らすことができるのだ」
「……そのような優しさは捨てなければ、ルシヴィル王を倒すことは不可能です。考えを改めてください。そうでなければムートさん、あなたがやられてしまいます」
「優しさではない!」
――これは
「強さだ!」
ムートの目は真っ直ぐと輝いている。
それからカリノは毎日ムートと共に修行をした。修行といってもカリノは武器も盾も持たず、魔法も使えない。スピードと瞬発力を鍛えればこの小さな体を活かせるだろうと、木々が生い茂り、足元の悪い場所を朝から夕までひたすら走っている。
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