2

6/6
前へ
/39ページ
次へ
 その日も夕刻近くなり、そろそろ退散の空気が漂いだしたそのときである。 「師匠! 一つお願いがあります」 「その呼び方はやめろと何度も言っているだろう。で、お願いとは」  どうやらカリノは勝手に弟子入りしたようだ。 「師匠は師匠ですから。あだ名と思って諦めてください――」  ジイは腕組みをしながら、まるで二人の父親であるかのような優しい瞳でこの会話を聞いている。 「――そろそろ一度、お手合わせを願えないかと」  カリノは温度が上がった瞳で真っ直ぐにムートを捉えた。 「手合わせといっても、こちらには木刀があるがカリノには何もないじゃないか。それに知っているだろう、できれば僕は誰も傷つけたくないんだ」 「そんな心配は無用とは思いますが……では、それを使ってください」  カリノは少し辺りを見回した後、ムートの左側を指差した。そこにはムートの木刀ほどの長さがあるが、かなり細く、思いっきり振り下ろされてもアザひとつできないであろう枝が落ちていた。 「それに師匠。ひとつ大きな勘違いをされているようです」 ――カリノには何もないじゃないか―― 「ボクにはこれがあります」  カリノは左右の足を交互に上げ、自信ありげにムートを挑発した。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加