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「『魔族特別法』に逆らう不届き者がいる。この法律上、今すぐ死刑にしてやってもなんら問題はない。しかし、そう急がずとも(ばち)は当たらないだろう。その不届き者、名をムートと申す。みなも知っておるであろう。私の初めての演説中に無礼を働いた人族のあの少年である」  あぁ、あの少年か――民衆の中の魔族は(あざけ)るように小さく笑った。 「あの少年、どうやら私を討伐するために北西の森で鍛錬を積んでいるらしい。今、王であるこのルシヴィルの演説すらも聞きに来ていないことがその何よりの証拠であろう。そこで、だ」  ルシヴィルが不気味に唇を歪ませる。 「あの少年が法も守れない愚か者であるとこは、みなもよくわかっていることであろう。周知のことであるゆえに、悪いのはあの少年だけでない。あの少年を止められなかった、いや、止めようとしなかった全ての人族、そしてそれと仲の良いエルフや竜人族、小人族も処するに(あたい)するとは思わんかね」  魔族とダークエルフ、それに巨人族の歓声が地響きとなったが、さすがに北西の森にいるムートには届かなかった。  また、紛争が始まるやもしれぬ――演説を聞いていたジイの子――名をネットという――を含め、多くの民衆の胸中はざわついた。
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