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「――っ!」  ムートは正面に見えたカリノに枝を振り下ろしたが、それは残像を切ったにすぎなかった。  背後から声がする。 「師匠。先ほどから同じことの繰り返しですね。そろそろ本気出してくださいよ。まさか、一度も当てられないなんてこと、ないですよね?」 ――いいぞ! もっと言ってやれ ――ギブアップするか? 人族よ ――あんなに毎日鍛えても一発も当てられないようじゃあなあ  見物している六人の小人族が好き勝手にヤジを飛ばす。  それよりも横目に見たジイの笑っている姿のほうが、ムートにとっては屈辱であった。  右を切り、左を切り、正面を切り、また右を切り……そのどれもが空を切った。 「ええい! もう終わりじゃ、終わり。いつまでやっとるんじゃ。小人族はもう寝る時間じゃろ、カリノ」  いつの間にか現れたコビィの声でその日は終わった。  翌朝、目の下にクマがくっきりとできたムートが、日の昇る少し前から北西の森に来ていた。  木刀を素早く一度、今度はゆっくりと二度振り下ろしたあと、そのままの姿勢で、目玉だけを小さく動かして何かを考えているようだった。 「今日はやけに早いな」 「……ジイもね」  振り返ったムートの姿に透けて、昨日の出来事がジイには見えていた。 「ムートよ、昨日の負けがよほど悔しかったのかもしれないが――」 「――負けたのではない! 決して! 決して負けたのではない! ただ……そう、時間が足りなかったんだ。あと一分もあれば一発くらいは……」
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