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 ジイは目をつむり、口から息を長めに吐き、勢いよく開けたまぶたに隠されていた瞳は厳しくムートを捉えた。 「本当にそう思うのか」 「え……?」 「お前はもう少しで一発当てられたと、本当にそう思うのか」  怒っているわけではなく、呆れているわけでもない。しかしそれらに近い感情を、ムートに初めて見せた。  生まれたときから優しいジイばかりを見ていたムートは、それだけでたじろいだ。 「……よく考えるんだ、ムートよ。まだ若いお前にとって現実は残酷なものとなることもあるだろう。しかし、それを直視できんようじゃ何も守れん。大切な物も友も家族も……自分自身すら守ることはできん。しっかり前を見て、一度現実を受け入れろ。それからじゃ。それまでは何も始まらん」  空を覆う厚い盾を見上げたムートの心に、若い弱さが渦巻いた。 「し、し、師匠! たたたた大変です! 大変なことが! あぁ」  どうすれば――と、カリノはひざと(てのひら)を地面につけ、過呼吸気味に自我を喪失している。 「何があった」  ムートとジイはほとんど同時に――実際はジイが一瞬速く――そう尋ねた。 「ダークエルフが――と、と、とにかく付いてきてください」  そう言うとすぐに背を向け走り出した。  そこで見たのは燃え盛る複数の家や木と、血を流し倒れる者、呆然とする者、涙を流す者。  そこはもう、ムートやジイが知っている北西の森――その北部にある小人族の居住区――ではなかった。
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