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 北の山の(ふもと)には立ち入るのを禁じる看板が等間隔に立ち、ロープで繋がれている。  ムートは少しのためらいもなくロープを(また)ぎ、内に入って立ち止まった。  ランサは決して寒冷の惑星ではない。どの地域に行っても十五度を下回ることはまずない。ただし、この北山を除いては。  山の天気は変わりやすいと言うけれど、この北山は雪が降り止むことはない。頂上に近づくに従ってその勢いも増してゆく。しかし不思議なことに『神の小指』には一片の雪すらかからないと言い伝えられている。  ムートは肺に冷たい空気を目いっぱい吸い込んだ。 「我が名はムートと申す。中央より少し南東に住む人族だ。のっぴきならない事情で(あなた)を頼らなくてはいけなくなった。どうか、受け入れていただきたい」  言い終えるとすぐに前進した。  ジイが『神の小指』について話していたとき、何度も出かかった言葉――そんなものは頼らぬ――を飲み込んだ。  ジイと同じくらい、もしかするとジイよりもムートは理解していた。現段階では自分の力だけでは、いや、人族すべての力を合わせたところで魔王ルシヴィルを退位、もしくは譲位させることは不可能だろうということを。  だから、真実かどうかもわからぬ『神の小指』に頼らざるを得ないのだ。  ジイの見立てでは、山頂まで順調にいっても一月はかかるだろうと言っていた。  なるべく早くたどり着かなくては――ムートはルシヴィルの暴挙を想像し、焦燥感に駆られた。
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