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――それにしても寒い。とてつもなく寒い。  歩き始めて三十分、ムートは初めて体験する雪に足を止める。 ――進むごとに寒さが増すのか。  少し憂鬱になりながらも、頭に浮かんだジイやカリノたちの姿に奮い立たされ、木刀を杖代わりにしてまた進み始めた。  さらに三十分歩き続けた。  吹雪とまではいかないものの、それに近いほどの強い風と大雪が視界を悪くする。まるで度数のひどく合わない眼鏡をかけているようだった。  そのため、目の前に見えるそれを小屋だと理解するのに少し時間を要した。 「人族のムートという者です。どなたかおられませぬか」  コンコンコン、と三度戸を叩く。  寒さに肺が慣れないせいなのか、戸を叩く音よりも声のほうが小さい。  もう一度戸を叩き、同じ言葉を繰り返したが、やはり返事はない。戸を開けると明かりがついており、中には竜人族が一人、温かそうなスープを飲んでいた。 「おお! びっくりした。ムートじゃないか。久しぶりだな。こんなところに何しに来たんだ?」  それはジイの子であるネットという名の竜人族だった。  竜人族の中でも体が大きく、外見はジイと瓜二つだが、ネットはジイと違いかなりの早口である。  小屋の中に入ってムートはすぐに気が付いた。戸が風に揺らされ、まるで外からノックをしているような音が鳴る。これでは来客にも気付けまい。
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