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「こんなところに住んでいたのか。寒くはないのか?」
「おう。寒いは寒い。とくに竜人族は変温動物だからな。父ちゃんには危険だからってここに住むことを散々止められたよ」
苦々しく、しかし、優しい表情を浮かべた。
では、なぜこんな所に住むのか――そう聞こうとしたが、ネットの言葉のほうが先であった。
「俺のことはいいんだよ。それよりもムート、どうしてこんな所にいるんだ? いくら恒温動物でも人族にもこの寒さは堪えるだろう」
「来なければいけなかったんだ。どうしても『神の小指』と指切りをしなくてはならない」
あぁ、『神の小指』か、なるほどねえ――と言いながら白髪交じりのあごひげを右手で撫でている。
「俺も『神の小指』は一度しか見たことがない。……たしか、父ちゃんが突然――」
――神と約束をしなくてはいけない。
ジイはそう言ったらしい。
「それで俺、反対する父ちゃんに無理やり付いていったんだ。前王様が王だったときの話だから、ごく最近のことではあるんだけど、なぜだろう、あんまり記憶がハッキリしなくてね。四百年前のことのほうが、まだ鮮明に思い出せるくらいだよ」
ネットはただ無邪気に笑った。
「で、父ちゃんは俺がここに住んでいることをムートには一切言わなかったのか?」
「あぁ。だから驚いたのだ」
ジイには二十人の子どもがいる。ネットはその中の上から三番目の子である。
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