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(番外3)初恋のその先
幼馴染の安島圭一が女の子を連れているところを最初に見たときのショックを、澤和志は多分一生忘れないだろう。
正直、何かの間違いだと思った。これは夢か、さもなくばたちの悪い冗談なのだと。だって、自分はもう十年以上もずっと圭一のことだけを思っていて、なんだかんだと圭一も同じ気持ちでいてくれると信じていたのだ。
祖父母、両親と三代で暮らす家の隣の空き地で建築工事がはじまったとき、まだ和志は三歳にもなっていなかった。つまり正確な記憶は持ち合わせていないわけだが、今でも祖父母はことあるごとに「新しいおうちにはどんな人が来るんだろう、仲良くなれるかなって、和くんはずっと楽しみにしていたからね」と思い出話をする。
ということはつまり、和志は出会う前から圭一に惹かれていたことになる。そして実際、ピカピカの隣家が完成した頃に、両親に手を引かれて玄関に現れた少年のことをすぐに誰よりも大好きになった。そして圭一も同じように自分のことを気に入ってくれたのだと思い込んでいたのだ。
「だからさ、まさか思わないよね。彼女なんて、そんな超重大な背信行為が起きようなんて」
あのときのことを思い出すだけで悲しさが込み上げて、和志はひとつため息をつく。そして、そんな和志の姿を横目でちらりと見やってから、圭一は眉と眉の間にぎゅっとしわを寄せて心底嫌そうな表情を見せる。
またこんな不機嫌そうな顔をして、圭ちゃんったら可愛くない。……いや、前言撤回。嘘。可愛い。どんな顔をしたって圭一は可愛い。どんなアイドルより、動物園のパンダより、少なくとも和志にとって圭一は常に世界一可愛い存在なのだ。
その世界で一番可愛い圭一は、ひとつ息を吐いて読んでいた漫画雑誌を閉じて、軽い力で投げつけるてくる。床に座る圭一が投げた雑誌は、ベッドに座って物思いに耽っていた和志の膝のあたりに当たってから、ぺシャリと音を立ててフローリングの床に落ちた。
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