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「なーにが背信行為だよ。勝手な思い込みのあげく、勝手に失望してただけじゃんか。そもそもその何年も前から家の行き来もしてないし、疎遠になってたのに文句言われる筋合いないだろ」
圭一は憎まれ口を——というか、それはただの痛い事実だ。
実際、中学校に上がった頃から圭一は毎日のように入り浸っていた和志の家へ来ることをやめ、まったく違うタイプの友人たちと付き合うようになり、和志のことをあからさまに鬱陶しがるようになっていた。しかし当時の和志は、普段の圭一が生意気で、傲慢で、ときに和志にひどい態度をとったとしても、そんなのはただの照れ隠しだと思っていた。
「思春期だから、そういうこともあるのかなって思ってたんだ。照れ臭くて好きな子のことを避けちゃうとか、聞く話だし……」
「あー、本当におめでたい奴。その頭かち割って一度中身見てみたいよ」
本当はわかっている。あの頃の圭一が、約十年ぶりの母親との再会で傷つき、混乱していたこと。家族の悩みを抱える圭一にとって、和志の家の温かく家庭的な雰囲気こそがひどく辛く感じられたであろうこと。でも、和志だってそれなりに傷ついたのだ。だから少しの文句くらい許されていいはずだ。
「圭ちゃんは絶対に俺のだって思ってたから、本当にショックだったんだよ。しかも、キ、キ……あーもう、思い出したくない」
「やめろよ、恥ずかしい。そんなこと俺だって別に思い出したくないよ」
そう、こともあろうか和志は圭一が最初の恋人とキスをする場面を目撃してしまった。
圭一いわく、帰り際の彼女にせがまれて一瞬軽く唇をくっつけただけだと言うが、そんなこと言い訳にもならない。とはいえこの件をあまり深追いすると、その後和志が一度だけヤケになって恋人を作ろうとしたときのことを持ち出されて、話は堂々巡りになってしまうのだが。
それどころかやけになった圭一からその後に付き合った彼女の話やキス以上の行為の話を持ち出されたら和志の心臓はとても持ちそうにない。自分から切り出した話をどうやって終えるか思案を巡らせているところで、圭一が苛立ったように言う。
「もう、そういうのいいじゃん。オレ、おまえのそういうネチネチしたとこ本当嫌い」
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