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「えっ?」
和志が驚いた声を上げると同時に圭一の手は頰を離れ、あとはただヒリヒリとした痛みが残るだけ。一瞬言われた意味が理解できず、きょとんとした和志だが、続いて投げかけられる言葉に力が抜ける。
「まさか何が目的で呼び出されたか気づかれてないとでも思ってた? そんなことあるはずないだろ。そのくせ、もだもだもだもだ鬱陶しい」
圭一の声色には確かに多少の苛立ちはこもっているが、耳のあたりが赤くなっているところを見ると照れくさいというのは偽らざる本音なのだろう。
まあ、和志だってどうせそんなところだと思っていた。恋愛経験がほぼゼロの和志に比べれば、圭一はよっぽど世慣れている。家族のいない週末に呼び出して下心が勘付かれない方がおかしいくらいのことは想像していた。だが、それでもいざとなると不安になるのが経験のなさゆえなわけで。
「ごめん……ムードひとつ上手く作れなくて」
でも、自分はそういう人間だ。ていうかあっさり口説いて色っぽい流れに持っていける甲斐性があるのならば、圭一と恋愛関係になるまでこんなに時間はかからなかったに決まってる。
「別に、そういう奴だって知ってるよ。それに——」
圭一はひょいと和志の腕の中からすり抜けると、腕をベッドの下に差し込んだ。
「待って圭ちゃん、それは!」
「……本当にわかりやすい奴だよ、和志って」
隠しているつもりの箱を取り上げられ、和志は羞恥に言葉を失った。圭一は箱の蓋を取ると、中身をひとつずつ取り上げる。何度か「練習」のときに使ったローションのボトル。コンドームの箱が空いているのは一人で装着の練習をしたからだ。これらをわざわざベッドの下すぐ手が届く場所まで持ってきていることまで、きっと最初から圭一にはばれていた。
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