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「……っ」
いつも、最初に侵入するとき圭一はひどく苦しそうな表情をする。濡らした指一本、痛みはないはずだ。例えるならば歯医者に行ったとき。さして痛くない治療だったとわかっていても、無防備な口の中に器具を差し入れられる瞬間はどうしても緊張する。そういう感じなのかもしれない。
「圭ちゃん、大丈夫? 少しずつするから」
声をかけて、顔を覗きこむと照れ臭そうに圭一は顔をそらした。
「あんまりゆっくりされても……やだ」
「え?」
思わずにやついたところで頭をはたかれた。だがその勢いで指が奥へと沈んでクチュッと濡れた音を立て、同時に圭一は「あっ」と切ない声を上げる。
「お、おまえ今っ、『そんなに俺が早く欲しいの』とか思っただろ!」
息も絶え絶えに圭一は何とか言葉を絞り出した。もちろんその通りだ。
「うん……」
「違うよ。こっちだって経験ないから怖いんだって! 指と全然違うからっ。だからあんまり生殺しは——あっ」
必死の訴えを聴きながら動かした指が敏感な場所に触れたのか、甘い息と同時に腕の中の体がびくりと震える。ふるりと震えた圭一の性器の先端から透明な雫が滴った。
自分と比べて経験豊富だから、と思い込んでいた圭一だが受け身でのセックスは初めてだ。和志とは別の意味での緊張や不安は思った以上に大きいのだとそのとき和志は初めて気づいた。それでも圭一は圭一なりに覚悟を決めて今日の誘いを受けこの部屋にやってきてくれたわけで。
和志は身を乗り出して圭一の首筋にキスをする。
「ありがとう圭ちゃん。痛かったり苦しかったりしたら、すぐ言って」
「ん。うん」
指を二本、三本と増やすうちにきつい抵抗のあった場所が次第に柔らかくなる。どこまでほぐせば十分なのか、正直確信はない。ただ、あまり長引かせても圭一が辛いだろうし、何よりそろそろ和志の下半身も限界だった。
目の前では恋人があられもない姿で身悶えているのに、自分自身には触れることもせず堪えている。ふと視線を下にやるとチノパンの前はぱんぱんに膨らんで、みっともないことに染み出した先走りで少し濡れてさえいる。前立てを開けて下着に手をかけると、よほど息苦しかったのか、それは勢いよく飛び出してきた。
「ちょっと押さえてて」
支えなしでは上手く入れられそうな気がしない。和志は圭一の手を取って、脚を大きく開いた姿勢のままでいるよう自らの膝裏を抑えさせる。目元まで赤くして少しぼんやりした表情の圭一は文句のひとつも言わずに言われたままにした。その視線が完全に臨戦態勢になった和志の局部に向けられる。
すでに自分の出したもので濡れた状態ではあったが、念には念を入れてローションをすり込んだ。触れただけで弾けてしまいそうなほど興奮していることは自覚しているので、和志はどうかそこが目的を遂げる前に暴発しないようただ祈るだけだった。
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