代理人ウメと依頼人

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代理人ウメと依頼人

そのあと依頼人に引き合わされて、いろいろと事情を聴くことになったのだが、河合議員も同席。依頼人のお家は地元の旧家で粗末にできないらしい。先代、つまり依頼人のお父さんにもお世話になったことがあるということで、依頼人とは前々から顔見知りで事情にも詳しいし、依頼人の頼みだということだけど、どうせ首を突っ込みたいだけなんだろう。 「つまり発端は、さかのぼるとお父さんが無くなる前くらいから?」 「ええ、そうですね。それまで音信不通だった弟が突然、現れて。」 「ああ、なるほど。」 聖書にある「放蕩息子の帰還」ってやつだろうか。それまで両親の面倒をずっと見てきた依頼人は、親からゆくゆくはこの家と土地はお前に頼むといわれていたらしい。それが突然、「いわゆる跡取り」が戻ってきたので、ごたついているわけだ。 「ウメちゃん、それだけじゃないんだって。お父さんの葬式の時はまだお母さんがいたから良かったけど、そのあとすぐ、お母さんが倒れて入院した時なんか病院からの連絡が一切こちらに来ないように病院に手を回して、あやうくお母さんの所在が不明になるところだったんだよ。」 「どういうことですか?」 河合議員がペラペラしゃべって依頼人から直接聞けないので、あえて依頼人のほうに向きを変えて聞いてみた。 「あの、それがですね、病院のほうは弟が長男なんで彼に伝えてあるから、彼に聞いてくれの一点張りで、何も教えてくれなかったんです。でも私が聞いても弟は何も教えてくれなくて。それで思い余って河合先生にご相談に・・・」涙ぐむ依頼人。 「それで僕のところに相談に来たんだよ。なにしろお父さんには世話になってるし、なにか力になってあげれたらと思ってね。」 「ふーーん。で、力になれたの?」 「もちろんですよ。病院に掛け合って、ちゃんと伝えるように院長にちょっと言っておきましたから。」 どうせなんだかんだ圧力掛けたんだろうな。それにしても病院の対応が変だという気はする。入院している親のことを聞いても答えないというのは・・・。 「ええ、おかげさまで。河合先生のご尽力で、母がすんでのところで別の施設に勝手に移されるところだったのを、なんとか止めることができまして。それで、できるだけ家の近くで私が面倒を見やすいところに入れていただいたんです。本当に、あの時はお世話になりました。」 深々と頭を下げる依頼人の姿に、まんざらでもなさそうな顔で鼻の孔広げちゃってるのは、みっともなくて見られたもんじゃないけど。 「そのあと母は亡くなりまして、いろいろと遺産のことで話し合おうと思ったのですが、葬式にも顔を出さずに『全財産の半分の金をよこせ』っていう一点張り。葬儀の費用も母の保険金で払うはずだったのですが、弟が受取人になっていて『それは俺のものだから』といって葬儀費用もだしてくれなくて・・・。なんとかかき集めて支払いは済ませたのですけど、『財産の半分は俺のものだから、土地は要らんから金を払え』というばかり。ほとほと困ってしまって。土地はありますけど、お金はほとんどありませんから、とても弟のいうような金額は・・・。」 また涙ぐむ依頼人。 「それでまた僕が間に入ろうと思ったんだけど、僕も議員だからあんまりこれ以上かかわると色々と難しくてさ。この先は法律でなんとかしないといけない部分だし。ウメちゃん、そういうわけであとは頼むよ。」 ということで、体よく押し付けられちゃったわけだけど、こういう骨肉の争いって労力の割には依頼人が満足するような結果になるかどうか難しい案件なんだよね。わかっちゃいるけど、このままだと土地を売って家を出ないといけないという依頼人も気の毒だし、結局なんだかんだ引き受けてしまった。
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