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裁判所にだす書面
「うーーん、なんて書くかなあ・・・。」
「お嬢様、作文ですか?」
お茶の時間になったらしい。庄司が紅茶をもってきた。
「小学生の宿題じゃないんだから。といっても、似たようなものかなあ。とにかく向こうの非をガンガン書いていかなきゃあ。極悪非道なやつだということを法律用語でビシバシ書き連ねて、こっちがどんなにひどい目にあってるかっていうのをアピールするんだから。」
「それはご苦労なことでございますなあ。」
全然心がこもってないよ、庄司。
「それにしても骨肉の争いというのは泥沼ですなあ。」
今日の紅茶のお供はブラックサンダーか。うん、こういうのも嫌いじゃないよ。高くて美味しいのは当たり前。安くて美味しい駄菓子は最高だよね。
「依頼人は、ずいぶん我慢してたようだけどね。さすがに先祖伝来の土地を売って金をよこせっていうのは腹が立ったんだろうね。」
「先祖伝来の土地ですか。たしかにそういうものがあると、余計に大変でしょうなあ。」
「両親もそのまた親から受け継いできた土地だからね。なんでも2代くらい前の後継ぎもなんかやらかしたらしくて勘当されたらしいんだけど。」
「昔は素行の悪い息子を勘当するというのはよく聞きましたなあ。」
「その辺の詳しいことは、昔のことだから良く分からないようだけどね。今は勘当もできないし,素行が悪かろうと相続はできちゃうから。」
「さようでございますか。素行が悪くても関係ございませんか。」
「遺言で『全部○○に相続させる』って書いても、遺留分っていうのがあるしね。」
「つまりどんなにひどいやつでも『手切れ金』くらいは渡さないといけないということでしょうか。」
「あー、そうね。まあそういう感じかなあ。法律的には、そういう言い方はしないけどね。とにかく依頼人が家を追い出されたりしないようにしないとね。なんか不審な車や変な電波障害もあるみたいだから、一度盗聴のチェックなんかもしないといけないんだけど。そっちは佐倉さんにお願いしてあるから、そろそろ連絡くれるかも。」
「他には係累はいらっしゃらないんですか?お父様のご兄弟なりお母さまの兄弟なり。」
「父方の叔母さんがいたみたいなんだけど、失踪宣告されて7年たっちゃってるから戸籍上はいないみたいね。そっちも今、調べてるけど。家出のようにして飛び出して海外に行ったらしいっていうことだけ。それっきりみたい。海外だから探しきれなかったらしいわ。」
「さようでございますか。」
「母方のほうは、とっくにみんな亡くなっちゃってるし、遠方だから付き合いもないみたいね。」
「つまり相続人は依頼の方と、その極悪非道な方ということでございますか。」
「そういうことね。だから法律に沿ってやれば半分ずつなんだけど。依頼人が親の面倒を見てたことや、いろんな出費を一人で何とかしてきたこととか、なにより家を追い出されるようなことにならない手を打たないと。」
「確かに、住み慣れた家を手放すのはつろうございましょうなあ。ところで、依頼人はまさか大堀という名前では?」
「え、何で知ってるの?」
「いえなに、その河合様の地盤は高津和でしたからな。あのあたりの名家、旧家ということで、そういうお宅というと大堀様かと思いまして。」
「庄司、いつものことだけどそれだけでよくわかるわねぇ。あんまり依頼人の素性をペラペラしゃべるのはまずいから、あえて名前を言わなかったんだけど。」
「お褒めいただきまして、恐縮でございます。」
「で、あなたのその博識なところで聞きたいんだけど、大堀家について他に何を知っているの?」
「そうでございますなあ。あのお家は普通の名家・旧家とはちょっと違うところがありまして。いわゆる神様を祭るお家とでも言いましょうか・・・。」
「神様を祭るって神道ってこと?神主さん?」
「当たらずとも遠からずでございますな、お嬢様。」
「それって当たってないってことね。いいから、知ってることを教えて頂戴。」
「わかりました、では少々長うございますが、よろしいですか?」
「できるだけ短く。」
「なかなか難しいご注文ですな。」
ふぅ、と執事はため息をついた。
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