大堀家

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大堀家

昔々、高津輪の土地には古代より信仰されてきた神様がいました。名前を「みしゃくち」の神様といって、荒ぶる神として恐れられていましたが、大堀家の先祖が封じ込めて、この地に祭ったといわれています。 大堀家のものは代々、その土地を守り封じられた神を外に出さないようにする役目を持っていたのですが、時代が進むにつれて段々と忘れられていったのです。 しかし大堀家のものは「この土地を守る」という使命だけは、忘れずに現代まで高津輪の土地を守り続けている。 「・・・という話でございますよ。」 「へー、それってフィクションだよね?」 「神代の遠い時代の話ですから、なんとも。ただ、あの土地には不思議な言い伝えや変わった祭りなどがあるのは確かでございます。」 「ふーーん。それで依頼人は、その大堀家の末裔だと。」 「そうではないかと思ったのでございますが。たまたま同じ苗字なのかもしれませんが。もともと『大堀』という苗字は神をまつる職業の一番偉い役職名の『大祝(おおほうり)』からきているという話もございます。」 「それで土地を売るわけにいかないってことになっちゃうのか。それにしても財産分与はしないといけないんだけどなあ。その土地を手放すとなんか悪いことが起きるから手放せない、なんていうのは法律では考慮されないし。」 「さようでございますか。法律というのは融通が利きませんなあ。」 お前も融通聞かないと思うけどね・・・と胸の中でつぶやいておく。 「その『みしゃナントカ』って神様、一体どういう字を書くの?」 「『みしゃくち』『みしゃくじ』などと言われてますが、漢字も「三尺口」だったり「巳射久血」だったり、いろいろあるようでございます。」 「なんか大きな口でバクバク、いろんなものを食べて血まみれみたいな神様なのかしら。」 「当たらずとも遠からずでございますな、お嬢様。」 「またそれいう。当たってないんでしょ、どうせ。」 「いえいえ、今度はどちらかというと当たっております。以前はシカやイノシシ、ウサギなどの首を並べて神様への捧げものにしたそうですから。」 「うわ、生々しいーー。血まみれ・スプラッターー。日本の神様って、もうちょっと草食系だとおもったんだけど。」 「高津輪の神様は、肉食系のようでございますよ。高津輪の近くには旧約聖書に書いてあるのとそっくりな山があって、そこもシカをささげる場所として有名なようでございます。旧約聖書マニアが聖地として巡礼する場所になっているとか。」 「聖書ってキリスト教のお経の本みたいなもんでしょ?そんな本に載っているところが日本にあるのね。ちょっと信じられないけど。」 「なんでも『失われし12氏族』というのがあって、その中の1つが日本に来ている、なんていう説もございますからなあ。」 「詳しいわね、庄司。」 「は、祖母がカトリックだったものですから少々興味がございまして若いころはキリスト関連の本を読んだものです。」 「なるほど、庄司も聖地巡礼をしたってわけね。」 「はっはっは。そんなこともございましたかなあ。」 「まあいいわ。依頼人が土地を手放せない背景もちょっとわかったし。あとは向こう側の事情も分かるといいんだけど。」 「それは佐倉様がお調べで?」 「もちろん、彼女が調べてわからないことはないわ。」 「たしかに、佐倉様は腕利きですなあ。消息不明の叔母様も見つけてしまわれることでしょう。」 「まあそちらは、あまり期待してないけど。本筋の相続ではないし。見つかったら見つかったで、複雑になっちゃいそうだし・・・。」 「そういうものでございますか。」 「さあ、おしゃべりはこれでおしまい。書類書かなきゃ。」 「これは長々とお邪魔いたしました。紅茶がさめてしまいましたな。入れなおしてきましょう。」 「そうね、よろしく。しばらく来ないでいいから」 そういったのが聞こえたのか聞こえなかったのか、ドアがパタンと閉まる音だけが聞こえた。
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