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佐倉すみれの報告
数日後、中間報告ということで事務員の佐倉さんが報告を持ってきた。
「松田先生、依頼人のお家にあった盗聴器などは全部取り外してきました。」
「やっぱり、あったのね。」
「ええ、どうやって取り付けたのかまではわかりませんけどね。」
「そこまではいいわ。私たちは警察じゃないんだし。」
「あと、怪しい車や人影っていうのもセンサー付きの防犯カメラでキッチリ確認できるようにしておきました。依頼人からも所轄の警察にパトロールの強化をお願いしてもらいました。」
「それは佐倉さんがついていった?」
「もちろんです。依頼人だけで警察署までいくのは大変ですから。警察に行くっていうだけで一般市民はハードルが高いですし。」
「ありがとう。それなら確実ね。」
「一緒にお茶も飲んできましたけどね。」
くすくすっと笑う佐倉さん。
「もちろん経費でよろしくお願いします。」
「ええ、もちろんよ。」
常識的な値段のところならね。ホテルのアフタヌーンティみたいに高くなけりゃいいでしょう。そのあたりは暗黙の了解。
「それから失踪された叔母様のことですが、30年ほど前にアメリカに行ったところまでは間違いなさそうです。そのあとは、まだちょっと調べきれなくて。」
「珍しいわね、佐倉さんにしては。なにか難しい問題でも?」
「それが・・・どうも外交官が関わっていそうなんです。」
「ああ、外交官特権ってやつね。なんでもフリーパスで持ち出せる治外法権みたいな。」
「そうなんですよ。ちょっと伝手を頼って今、問い合わせてはいるんですけど・・・。どうも外交官だけじゃなくて王族もかかわっているようなんです。」
「王族っていうとイギリスとか?」
「他にも王族のいる国はありますよ、先生。」
あきれたような声をだす佐倉さん。
「わかった。とにかく調べられるだけ調べておいて。」
「王族が絡むとワクワクしますよねー。」
それは佐倉さんの趣味よね。昔はベルばらや宝塚のファンだったみたいだし。今でも宝塚の出待ちをしているらしいけど。
「相手方は?」
「そっちのほうも、ちょっとてこずっているんですけど。もう少し待っていただけませんか。」
「わかった。なるべく早くしてね。居所くらいは分かってないと。まさか、こっちも海外ってわけじゃないでしょ?」
「こちらは国内です。ただ、先生がにらんだ通り危ない筋がからんでそうなんで、私一人じゃ手に負えないかもしれないんです。」
「うーーん、そうかあ。ちょっと河合議員に相談してみるかな。あんまり借りは作りたくないけど。」
「なんかヤバいことにかかわっているんじゃないですよねぇ、相手方。」
「そうじゃないことを祈りたいわねー。じゃあ、引き続き背景調査をお願いしますね。依頼人の有利になるように、とにかくなんでも調べておかないと。」
「あと1週間以内には。」
「5日でお願い。」
「厳しいなあ松田先生。」
「佐倉さんの腕を見込んでいるから言うのよ。」
「そういうことをいうのが、ずるいですよねー。もぉ・・・頑張りますー。」
「もっと早くできたら、一緒にアフタヌーンティ、いきましょ。スリーピングポットのある素敵なところ。」
「わぁ、それは楽しみっっ。」
「早くできたら、よ。」
「了解っっ。」
こういうことをするから、また経費がかさんで庄司に怒られることになるんだろうけど、人間ってモチベーションが大事だから。そういうところでお金をケチっちゃいけないっていうのは松田家の伝統でもあるんだから仕方ないわよね。
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