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答えはわからないけど
「あなたの端末情報を見せてくれる?」
女性に言われるままに端末から好みのコーヒーの味を呼び出す。
「そんな感じなんですね。そしたら、このボタンとこれと濃さは二番目のものを選んで押してくれれば、大丈夫ですよ」
教えてもらった通りにボタンを押して、コーヒーが出来上がるのを待つ。
「あなたは……?」
「私はJCSの従業員の泉と言います。あなたは修学旅行に来た学生さん?」
「そうですけど……」
泉さんは、フリードリンクマシンの前に立ち、操作パネルを指さした。
「これと同じようにJCS内では日本にいた時のようには簡単にはいかないんですよ」
「なんで今どきアナログなんですか?」
「JCSは日々地球からの技術を持ち込んでいますけど、細かいところはまだ追いついていないです。私もまだまだ勉強中です」
「大人になっても勉強が必要なんですか?」
「まさか、大学を卒業すれば、完璧だと思っています?」
にやにやしながら泉さんは私の顔を見た。
完璧だと思うはずだ。
大学までは義務教育、就職も今は困らない。大学までの勉強をしっかりしていれば、大人になっても安心。それが常識となっている今、何を疑うの?
「私も大学を卒業して就職して三年目ぐらいまでは、このままで大丈夫だって思っていました」
「だったら」
「でも気が付いちゃったんですよね。それじゃ、それ以上の成長はないって」
それ以上の成長?
大人も成長しなくちゃいけないのか?
自分の中にどんどん溢れてくる疑問。すぐさま端末で検索をかける。
結果は『No Data』。ということは……。
「成長なんて必要ないと思います。目の前のことをしっかりやっていけば」
「それじゃつまらないじゃないですか。人生はいかに楽しむかが大切だって、私は思います」
そう言い切った泉さんは、どこか楽しそうだ。よほどここでの仕事が充実しているのかな。
「あなたもまだ高校生です。JCSと同じく成長途中だから、ぜひいろいろ見て下さい。勉強になりますよ」
泉さんは出来立てのコーヒーをフリードリンクマシンから取り出して、私に渡してくれた。貰ったコーヒーの香りは地球で飲んでいるときと同じような香りだった。
「ありがとうございます」
「何か聞きたいことがあれば、いつでも声かけてください。基本的にこの研究スポットにいますので」
コツコツとヒールを鳴らしながら、泉さんが別の研究スポットに向かって歩き出した。
……人生はいかに楽しむか、か。
今まで自分の考えにそんな言葉はなかった。与えられた課題をこなして、大学を卒業して、就職して、そこでのんびり仕事をしていればこの先の人生は安泰だと思っていた。安泰だとは思っていたけど、もう少し考えを変えてみてもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、私はゆっくりと歩きながら、今後のことを考えることにした。
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