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第一話 オリオンの出会い
彼と出会うまで、蒼にとって学校の休み時間は一人で過ごすものだった。鐘が鳴り、雑音に包まれ、一時間の静寂が姿を隠してしまう数分の間が苦手だった。それが、好きな時間に変わってしまうなんて、何があるか分からないものだ、と蒼は隣で本を読む彼――友人を見やる。
短く切り整えている透き通る黒の髪がはじめに目に入る。こちらからは見えないその両の目はきっと手の中に納まる文字列を何度も違う場所から往復しているのだろう。ぱら、とページをめくる音がして、蒼はその動きを自然と追っていた。
秋も終わりの昼下がり。雲がなくあたりも明るくなっていたから、外の中庭のベンチに座って昼食を摂ろうという生徒も少なくなかった。蒼は一人でないのならどこで食べてもいいと思っていたため、本当は外で食べるのは少し苦手だったけれど、いつの間にかこのベンチで迎える昼休みが恒例になっていた。
両手を膝の上に置いて、背もたれに背中を預けて息を吐く。あとは、本を読んだままの友人――光坂迅と気が向いたら何かをぽつりぽつりと話しながら、一人で過ごしたら無限にも思える退屈な時間を潰すだけだった。
否、もうその時間はとうの昔に退屈とは正反対のものになっていたんだ。
「……ね、何読んでるの?」
「ん?ああ、これはな……」
迅から聞いた本のタイトルは知らなかったが、本に目を落としながらも少しだけ高くなった声が聞けて嬉しかった。
迅が誰かに聞いてほしいと思った話を自分が今、聞いている。
そんな風に、話してしまいたい事全部をすんなり言えてしまえるならいいのに――。
「超能力か……なあ蒼。お前だったらどんなのがいい?」
「超能力?」
「そう」
迅が読んでいたのは、平凡な高校生がある日超能力に目覚めて、それまで知り得なかった世界に身を投じていく、という話を描いた小説だった。ありがちな設定の中に、ユーモアに富んだ会話や胸に刺さる描写が多く、その世界観に引き込まれて買ってしまったのだ、と迅が話してくれた。
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