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超能力。蒼なら、何を望むのか。
何気ない会話なのに、蒼は胸にずっと秘めている願いを、その答えにのせてしまいたくなって慌てた。うーん、そうだねとさりげなく顎に当てる手が震えないように必死に堪えながら、喉の奥から身をよじって出てこようとする声が揺らいでしまわないように一度唾を飲み込んだ。
「じ、迅はどんなのがいいの?」
「俺か?俺はそうだなあ」
手の届かないくらい内側からキツく締め上げる鎖のような鋭さで、鼓動が聞こえる。顔のすぐ隣で脈を打っているみたいにうるさくて、迅の声が遠のいた。
「分かったぞ蒼。俺、遅刻しない超能力が欲しい。今日は珍しく遅刻しちゃったからな」
「確かに今日は珍しく遅刻してたね。いつもの時間に居なくてあれ、って思ってたよ」
「だってよぉ、この本が面白くってつい夜中まで読んじゃったからさあ。まあ、この能力があれば向かうところ敵なしだな」
「古典教科は?」
「古文と漢文とは分かり合えないんだ」
「じゃあ、数学」
「あれは古文だ」
「物理は?」
「それも古文。つか、ちゃんと平均越えてるから大丈夫だ」
「もう……迅ったら」
いつもみたいな他愛ないやり取りだけで、不思議なくらい鼓動は落ち着いた。震えも止まって、普段の声だ。いつも通りを取り戻せたと、内心蒼はほっとしていた。
けれど、それでも変にかいた汗が背中をつう、と一筋の軌跡を描いて伝った事は、いつも通りとは違っていた。
「で、蒼は?」
「そうだな……僕は」
少し考えてみる。取り繕ったような言葉に見せたくなくて、もう一度唸ってみるけれど、特に何も思い浮かばなかった。
ちら、と迅を盗み見ると、本をぺらぺらと捲って何か口の中で呟いていたが、その詳細までは聞き取れなかった。
――何、考えてるのかな。
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