顔も名前も知らないともだち

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 毎日だいたい午前九時二十分。パソコンを立ち上げてログインボタンを押すと、ユカリは「ユウジ」になる。  画面に映るベッドと学習机があるだけのバーチャルの自室に、デフォルメされた茶色いツンツン頭の男が現れた。頭上には「三年二組」のアイコン。左側には「ユウジ」の名前。この世界におけるユカリの分身、アバターだ。  ユウジを寝間着から着替えさせ、次は学習机の中から今日の授業に必要な教科書をカバンに移して朝の支度が整った。  こうして今日もユカリ――ユウジは、私立御幸学園中等部オンライン校に登校する。  校門を通って教室へ。自分の座席の前で着席を選択すると、画面は学習機能画面に遷移する。素っ気ない白い画面はいくつかに分割されていて、それぞれに先生が書くホワイトボードの内容、教科書の内容、自分のノート、教室内のチャット――もちろん原則私語禁止――などが表示される。  始業チャイムが流れ、国語の佐藤先生が画面に映し出される。生徒は全員アバターだが、先生は生身で授業を行う。ホワイトボードに「あたらふと」から始まる俳句を三分割にして大きく書き付けてから「そう言えば夏休みに日光に行こうと思っていて」なんて雑談を始めた。  教室内チャットには「お土産買ってきてくださーい」「どうせならハワイにしなよー」などのコメントが流れた。
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