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Act 3 ① Remember
ニューヨークの秋の訪れは早い。
緯度が高く、早々に寒気団が居座りだすからだ。
摩天楼の間を肌寒い風が吹き抜け、セントラルパークの森林が紅葉した葉を優雅に舞わせていた。
「抗生物質がオレンジで…っと、これでしょ…」
ローナは石畳の上を歩きながら、ドラッグストアで処方された薬を確かめていた。
突然、声をかけることなく無言で後ろから肩を2度叩かれた。
「子猫ちゃん、やっほーっ」
ローナは振り向きざまにバッグを振り上げた。ニューヨークでは何事も用心しなければならない。
何が起こるかわからないからだ。
ストリートギャングか、ストーカーか、スカウトマンか。
よっぽどでない限り後ろからなどありえない。
「ちょ、ちょっと、こらぁ、ローナ、私の顔、忘れたの?」
1人の女性がローナの後ろに立って、手を振っていた。
「…?」
ちょっと首を傾げて、彼女の顔をじっと見た。
その顔が1秒とたたないうちに紅潮した。
「ディアーナじゃない! わ–−––––っっ!久しぶりっ」と、抱きついた。
「思い出すのが遅い!しばらく会わないうちに、過激になったと違う?」
長い栗色の髪を後ろで三つ編みに束ね、ローナよりも少し背の高い女性だった。
上品な紅いコートとブーツが印象的だった。
「環境に順応しているって言ってよぉ」
「だって、スコットランドにいたときは、もうちょっと物静かでお嬢さまって感じな気がしてたけど?」
「ん。いろいろあったからね」
ローナは表情を曇らせた。
彼女の父は国家機密に関わり、屋敷でテロリストに殺されてしまったからだ。
アレックスだけが自分の言うこととを信じて助けてくれた。
その縁で彼女はこの地に残ったとも言える。
スコットランドに戻らずそのままニューヨークに残ったのだ。
「……おじさまのこと聞いたわ。大変だったわね」
ディアーナは声のトーンを落とした。
「でも、お父様の遺言は守れたし、こっちの大学にも編入できたし、大丈夫よ」
できるだけ明るく振る舞おうと、笑顔を見せた。
「ね、ディアーナ。ゆっくりできるんでしょう?」
「まあね。じゃなきゃ、ニューヨークくんだりまで様子見に来やしないわ」
「こんなところで立ち話もなんだから、家に来て、お茶飲もう❤️」
ローナはうるうるとした目で哀願した。
「久しぶりに、アンタが淹れたブラックティーが飲みたいわね」
「いいわよ。行こ!」
ディアーナの手を引いて、ローナは小走りに走り出した。
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