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「おい? い、いるのか?」
辺りをもう一度見回しても、やはり誰もいない。代わりに、何かのモーター音が大きくなっていく。モーターの回る音と、何か物理的な重い音、金属音が次いで聞こえてくる。
これは、もしかしたら家の中から聞こえてくるのかもしれない。しかし、そんなことが今まであっただろうか。
いったい何の音なのか。
自分の家だというのに、それ以上踏み込むのが恐ろしくなってきた。そんな時、天井辺りで何かが動いた。四角い何かが、これまた何かを伝って、宙を滑るように近づいてくる。近づいてきて、俺の目の前で止まった。
『おかえりなさい。ご飯にしますか? それとも先にお風呂に入りますか?』
そう、妻の声が俺に訊ねた。と同時に、俺の目の前に掲げられた四角いモノ……よく見ると、タブレット端末のようだ。画面には、今、妻の声が訊ねた内容が二つのボタンとして表示されている。
どちらか押せということだろうか。
「え、え~と……」
おそるおそる、『ご飯』と書かれた方のボタンをタッチした。
『はい、じゃあ作りますから、できるまでに着替えてきて下さいね』
”作る”と言った。機械の声が。どうやって?
するすると壁伝いに居間へと消えていくタブレットを追って、俺は居間へと足を踏み入れた。すると、居間と繋がった台所で、何かがガチャガチャと動いている。
おそるおそる電気を点けてみた。すると……動いていた。様々なモノが、自動的に。
家具の配置などは以前とそう変わらなかった。居間に置かれたテレビにソファ、妻のお気に入りのカーペット、ダイニングテーブル、キッチン、そして妻が気に入ってそこかしこに飾っていた手のひらサイズの猫の置物。それらは変わらない。
だが、確実に違う。
壁や天井を這うようにたくさんのレールやワイヤーが張り巡らされ、それらからフックが吊り下げられている。そこに括りつけられたモノたちが、次々と動き出す。
カチッと音がしたかと思ったら冷蔵庫の扉が開き、機械音と共にギミックが動いて卵やら魚やらをポイポイ取り出す。そして、同じようにワイヤーなんかが仕掛けられた調理台からフライパンが取り出され、レンジにかけられ、温められていく。
よくわからないが、これは料理の工程じゃないのか?
どうして、人間が何もしない間に料理が始まっているのか。
というか、我が家はいったいどうしてしまったんだ?
妻がこんなことを仕掛けたのか? 仕掛けられるとしたら妻しかいないが。
単身赴任先に向かう直前に見た我が家とあまりに違う様相に、眩暈を覚えた。ふらふらとおぼつかない足取りでソファにたどり着くと、目の前のテレビが勝手に点灯した。
「こ、今度は何だ……!?」
ホラー映画に入った気分でテレビを見つめた。すると、声が聞こえた。
『おかえりなさい』
また、この声だ。だが今度は、声だけじゃない。
テレビ画面には一面、妻の顔が映し出されていた。
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