一、権助

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一、権助

権助は無口ではあるが仕事熱心な蕎麦打ちだった。 江戸市中界隈で美味い蕎麦屋といえば、まず権助のとこであろうと評判であった。愛想は悪いが、蕎麦は美味い。そんな噂を聞きつけたどこぞの殿様が権助を呼んで、屋敷の庭で蕎麦を打たせ舌鼓みを打ったという噂が噂を呼んで、”権助蕎麦“は大層繁盛していた。 ところが三月前、権助蕎麦は突然、店仕舞いをした。 懇意にしていた町人、商人、武士、その店の蕎麦に舌鼓みを打っていた者達は店の暖簾の下がっていない様子を見かけるたびに心を曇らせ、ガタリとも動かない枯茶の扉の横を通ってゆくのであった。 彼らの脳裏にはいつも一杯の蕎麦を啜っている間、一心不乱に蕎麦を打っている苦虫を噛み潰したような強面の店主の姿が浮かんでいた。やがてその者達の耳にある噂が流れてきた。店主は闇賭博に手を出しており、借金を多くして返済に困り、近くの橋から堀に飛び込んだのだと。
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