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あ、このパンダのキーホルダー可愛い。
母さんと駅で電車を待っている間に覗いてみた小さな売店に好きなパンダのグッズが沢山並んでいた。どれもとても可愛い。ご当地限定の物もあって見ているだけですごくテンションが上がった。僕はその中で1つのパンダのキーホルダーに手を伸ばした。パンダと一緒についていた鈴がチリンと鳴る。僕は、はっとしてすぐ手に取るのを辞めた。
ああ、もう!僕
ここでは、もう好きなものを好きっていうの辞めるんだ。そう決めたじゃないか。
「三月、それ欲しいの?買ってあげようか?」
お母さんがペットボトルのお茶を2本手に取りレジのおばさんの所に向かう途中、僕の方を向いて聞いてきたけど思いっきり首を横に振った。
「それ、可愛いじゃない。そんな大して高くないから買ってあげれるよ?」
母さんは僕の代わりにそのキーホルダーを取り、お茶と一緒にお会計をしようとした。母さんはあるきっかけからすごく優しくなった。
「いいって!」
僕が慌てて母さんの元に行くとレジのおばさんがにっこり笑って言った。
「お母さん、これ女子高生の子たちの間で人気のものなんですよ。息子さんはお買い物をしているお母さんを待っている間、なんとなくそのキーホルダー見ていただけじゃないのかしら?だって男の子だもの。そんな可愛いものより、カッコいいものが欲しいわよお」
おばさんは可笑しそうにくすくす笑い、最後は僕に「そうよね?」と同意を求めてきた。…悪気がないことぐらい、分かってる。分かってるけど、僕は無理矢理笑顔を作り笑い飛ばした。
「ですよね。僕、男だからこんな女子が好きそうなもの好きな訳ないし!」
男が可愛い物好きとか、気持ち悪いんですけど!
前の学校の女子たちの声が聞こえた気がした。こんな遠く離れた場所にあいつらはいない。分かってるはずなのに、冷や汗が止まらなかった。
「あら、もうこんな時間!この電車逃したら次の電車まで20分も待たないといけなくなるわ!すぐホームに行きましょ!」
母さんがいきなり大きく手を打ち、勝った2本のお茶の1本を僕に渡して背中をぐいぐいと押す。
「え、ちょっと母さん!」
ちょっと痛いぐらいに押す母さんに戸惑いの目を向けるけど、全くの無視。
「それじゃあ、失礼します」
母さん はレジのおばさんにニコニコしながら頭を下げ、僕たちは売店を後にした。
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