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眉をひそめて顔を思い切り逸らす。噛んでいた餅を飲み込んで抗議した。
「なんでお前は僕が餅食べてるとキスしてくるんだ」
フランスにいた頃も、新年は日本食品の店で餅を買ってきて食べていたが、その頃から閑はいきなりキスしてくることがあった。
食べてる途中にキスされるのが嫌なのだが、閑は全く悪びれず、昔と同じ言い訳をした。
「なんか隼人がもちもちしたもの食べてるときの口元かわいいんだよ」
「やめろ」
「もうしない」
毎回もうしないと言ってまたする。
僕は眉を寄せたまま、これはさすがに市販品であろうかまぼこを食べる。
閑が冷蔵庫から出してきた小さめの酒瓶を、僕は手を伸ばして受け取った。
「このくらい全然平気だよ」
そう言った閑を無視して、スクリューのキャップを開ける。
閑は右手の握力と可動域が若い頃よりずっと落ちている。
料理をこれだけ作るのも大変だったのではないかと思うと、少しでいいから何かしてやりたかった。
小さなガラスの酒器に日本酒を注いでやる。
「ありがと」
閑は楽しそうな表情で日本酒を飲んだ。
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