88人が本棚に入れています
本棚に追加
#ネクタイと執心
――閑(のどか)に、変なスイッチが入ってしまった。
「……ね、いいでしょ? このままさせて?」
「頼む、から……っ、待って……」
息が上がる。せめて、先にシャワーを浴びたい。
そう言おうとしたが、肌を這う閑の手に声が詰まる。
乱れた着衣を、完全には脱がさずに、閑は服の合間から手を差し入れてきた。
「ねぇ、今度エッチな下着買っていい?」
「……は? 勝手に、しなよ」
急になんだと思ってそう返したら、閑の方が首を傾げた。
正直閑がどんな下着だろうが僕は興味がない。
あんまり変なのだったら笑ってしまうかもしれないが。
「いや、隼人(はやと)の。買ったらはいてくれる?」
「捨てる」
馬鹿な話に興奮が少し冷めた。そんなのはくわけがない。
スーツやジャケット姿で出勤するオーナーの閑と違って、僕は私服でレストランに出勤して、店で制服に着替えているのだ。
それに、こういうときだけ、そういう下着を身に着けるというのも、なんだかすごく恥ずかしいことのように思えて、僕には無理だししたくない。
「あー、でも、そっか。俺がはくのもありかな。おそろい買う?」
普段のような気楽な口調で下らないことを言いながら、閑の手のひらは僕の肌の上をじっくりと這って、僕が反応した場所を優しく爪の先で擦る。
「……は、ぁっ。閑、ちょっと、休ませて」
「いやぁ……それは無理でしょ。
こんな格好の隼人見てたら、止めらんない」
もう一つ二つしかボタンのはまっていない白いシャツとたくし上げられたインナー。
ベルトを外され前をくつろげられたスラックス。ほどかれたネクタイと、肩まで落ちたジャケット。
僕は普段は着ない、スーツ姿だった。
閑が僕を見つめる。
「…………あと、ごめんね?」
急に囁かれた謝罪に、閑の明るい瞳を見つめると、愛しげな視線を返された。
「今日ね、隼人のこといじめる」
ホテルの広いベッドの上で、閑は甘えるような声で告げた。
最初のコメントを投稿しよう!