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「…いや、ポテチうんまッ。」
カーテンを締め切り薄暗く、
物が散乱して狭くなった部屋で
テレビの光だけにぼんやり照らされ、
パリパリという咀嚼音が響いていた。
「毎日全然楽しくない。
でも今日は、江口くんとちょっと
話しちゃったもんね〜♪」
と、ななが今日の出来事を
振り返っていると、
ピカッ!!!!!
ゴロゴロゴロゴロ!!!!!
眩い光の直後、雷鳴が轟く。
テレビが消えて、真っ暗になった。
床に転がったものを慣れた様子で避けて
カーテンを開けると、
曇り空が広がっていた。
街路樹は強風にさらされて、
激しく揺られている。
「雨も降りそう、やだなぁ。」
と呟き、カーテンを元に戻した。
ポテチをまた食べようと
振り返ると、横に憧れの
江口くんが座っていた。
「ええええええ!ななななんでいるの?!
不法侵入だよ、江口くん!!!」
(驚いたけど私的には嬉しいよ!
ただ、社会的にはダメだよ!)
『ななさん?落ち着きなさい。
私は江口くんではないわ。
この世界の神様よ。江口くんの身体に
憑依して今話しているのよ。』
完全に見た目は江口くんだが
凛とした綺麗な人を思わせる
女性の声になっている。
(江口くんがおかしい…どうしよう。)
『……にしても、まぁ、なんなの?
この部屋!!神様驚いちゃったわよ。
絶句よ、絶句!』
自称、神様の江口くんが辺りを
キョロキョロしている。
(え、絶句?めっちゃ喋るじゃん。)
『あら、あなた文句でもあるの?
神様、いたずらしちゃうわよ。』
そういうと神様江口くんは指をらした。
ぷ〜ん、ぷ〜ん
ななは、身体が痒くなってきた。
「何したの?痒い…。
え?!やだ!蚊がめっちゃいる!
元に戻して!ごめんなさい。」
『分かったなら良いわ。』
もう一度指を鳴らすと蚊はいなくなった。
(神様のいたずらのレベルが可愛い…)
用意していたのか、痒みどめの薬を
おもむろに、ななに渡しながら
神様江口くんは話し始めた。
『あなた、職場にあった七夕の短冊に、
《江口くんと仲良くなれますように》
って書いたわよね。
だから、そうなれるように
今のあなたを良い女に変えるために
来たのよ。』
江口くんの姿のまま言われると
少し照れてしまう。
神様江口くんは、ポテチの袋や
床に散乱したものを指差して、
『とりあえず片付けましょ。
新しく買ったら何か捨てる、
面倒でもやらないと。こんなお部屋に
江口くんを呼べますか?』
と、神様江口くんから言われる。
胸が痛い。
(見た目は江口くんだからな…。
違和感しかない。)
そう思いながらも手を動かし、
2時間かかってようやく部屋が片付いた。
『やれば、できるじゃない。
これからも散らかさない努力を
続けることを約束しなさい。
あなたが、今まで外見磨きのために
努力していたのは知ってる。
頑張り屋さんのあなたなら
きっとできるわ。素敵なレディになって。』
「はい、やります。頑張ります。
江口くんと仲良くなるためにです。」
それを聞くと神様江口くんは
ななの頭を優しく撫でてくれた。
思わずななの顔がニヤける。
神様江口くんも微笑むと
次第に全身が輝き出した。
「眩しくて見れない!!」
ななは、眩しさに耐えられず目を背けた
『また会いましょ。』
そう聞こえたような気がした。
もう一度見たときには
江口くんの姿はなかった。
綺麗にものが整理されて
ピカピカになった部屋で、
「私の外見だけじゃなくて掃除して
綺麗なお部屋で生活して、
内面も磨いていかなきゃ。」
と言い、なながカーテンを再び開けると
窓の外であんなに厚く空を覆っていた曇が、
嘘のように消え去り、
青い空がどこまでも続いていた。
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