いつか、泣くほど誰かを好きになる日

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いつか、泣くほど誰かを好きになる日

俯いたまま何も言わない彼女に、不安が募る。はやく結果を知りたい急かす好奇心と、彼女のタイミングで話せるようにゆっくり待ちたい親切心がせめぎ合う。 どうだった?って私から聞いていいのかな。なんとなく、表情が…暗いような…これは…。 「振られちゃった。友達のままでいたいって。」 涙声で無理やり笑おうとするから、笑顔がぎこちない。切なげな表情に、こっちまで泣きそうになる。こういうときなんて言えばいいのかな。頑張ったね?えらかったね?次があるよ?お疲れ様? わからないから、とりあえず背中を撫でた。どんどん眉間の皺が深くなって、遂に泣き出した彼女。学校から公園まで、我慢していたのだろう。彼の前では泣かないように、頑張って上手に笑って、そっか、わかったよって、ありがとうって、最後の力を振り絞ってなんとか強がった。それが今、切れた。 人気のないいつもの公園で、初めて見る友達の泣き顔。失恋した友達とそれを慰める私。放課後、いつもの公園での時間に、新たな一ページが刻まれた。大人になって今日を思い出すとき、あんなこともあったねと笑えているといいな。 彼女をブランコに座らせて、自販機に向かう。彼女のお気に入りはいちごみるく。でもここ最近飲んでいたのはお茶。ダイエット中だからって言ってたな。どうしよう。 迷って悩んで押したのはいちごみるくのボタン。冷えたジュースを二つ手に戻る。 失恋した友達の隣で、不謹慎かもしれないが、それでも彼女が羨ましかった。恋しているときの彼女は活き活きしていて、恋そのものを楽しんでいるように見えた。 振られて泣くほど誰かを好きになれた。それが素敵だ。 しかし、いつも笑顔で明るい彼女がここまで泣くくらいだから、失恋は相当な痛みを伴うと見た。 すすり泣く彼女の隣。かける言葉が見つからず、ジュース片手に座っていることしかできない。でも、今はそれでいい気がした。ただ寄り添う。それだけで落ちつくこともある。下手に励まさなくてもそれだけが嬉しいときもある。 いつか私にもくるのだろうか。涙が出るほど誰かに恋をする日。そうなったら私は、どうなってしまうのだろう。未知の感情で、恋している自分の想像もつかない。 人を好きになるって、恋するって、失恋するって、どんな感じだろう。ひとつの恋の終わりに立ち会い、まだ見ぬ自分の姿に思いを巡らせる。 「好きな人ができたら教えて。今度は私がお祝いにジュースおごるから。」 涙で濡れたまつ毛を光らせ、微笑んだ彼女は、きれいだった。妙に大人びて見えた。一生懸命誰かに恋をして、失恋して傷ついて、それを乗り越えた先で、彼女はまた一歩大人に近づくのだろう。そうやって素敵になっていくのだろう。 明日か明後日か、一ヶ月後か、数年先か。なるべく早く来てほしいその日が、いつ来てもいいように。今は自分磨きを頑張ろう。 そして待ち望んだその日がついに訪れたら、怖がらずに思いっきり飛び込めるように。今は体力を温存して、楽しみにもう少し待ってみようかな。 いつか、泣くほど誰かを好きになる日。
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