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Chapter.5
少し冷めたつまみ類も、それはそれで美味しい。けれど、ゆっくり味わうのとは程遠い心持ちになってしまった。
なんだか妙にソワソワと浮足立つ心。それが期待感なのか不安感なのかは自分でも良くわからない。
「そうだ」
出汁巻き卵を食べながら攷斗が口を開く。
「会社行く前にコンビニ寄らないと」
「なんか買い物?」
「婚姻届」
「……あれって売ってるもの?」
「アレに付録で付いてんでしょ? 結婚情報誌」
「あぁ」
そういえばテレビCMで聞いた気がする。
「ハンコ持ってるよね」
「スタンプ印なら」
「あ、じゃあダメだ。ゴム印ダメだって書いてあった」
「じゃあ多分、社長はまだしも湖池も持ってないよ」
「そーだよね」
攷斗はひぃなの話を聞きながら、スマホで何やら調べている。
「棚井だっていま持ってないでしょ? だったら」この話は一旦保留で、と付け加えようとしたのに
「途中にドンキあるでしょ。あそこで作って行こう」ひぃなの言葉は遮られた。
「作る?」
ほらこれ、とスマホの検索結果を見せてくる。なるほど【ハンコの自販機】。世の中便利になったもんだ、と感心してふと思う。
(ホントに本気なんだな……)
その心中を察することは出来ないが、その場のノリにしては仕事が速すぎる。そもそも攷斗は冗談でここまでゴリ押ししてくるようなタイプじゃない。
酒の勢いに任せて承諾してしまったが、この先の人生を考えるとパートナーはいるに越したことはないだろう。それに……
(棚井となら、うまくいくのかも……?)
なんて考えてみる。
そもそも攷斗は基本的に【我関せず】のスタンスが多い。“どうでもいいことは心底どうでもいいし、そんなんに使う時間もったいない”と何回も聞いたことがある。
それがこんなに熱心 (?)に取り組んでいるということは、そこにはきっと“本気”があるのだろう。
(くくるか、ハラ……)
やっぱりおっさんみたいな決心をして、この流れに乗ってみることにした。
* * *
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