Chapter.1

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Chapter.1

「家借りるときさぁ、保証人が必要だと困るとき来そうで不安なんだよね」  酒の席で元後輩にそんなことをグチったら、旦那が出来ました――  ――ことの発端は数時間前。 「久しぶり」  居酒屋の個室にひょこっと現れたのは職場の元後輩・棚井(タナイ)攷斗(コウト)だ。 「おつかれさま」  スマホをいじる手を挙げ、時森(トキモリ)ひぃな(ヒィナ)が挨拶する。 「なんか頼んだ?」席に着くや聞く攷斗。 「ううん? まだ。決めてはある」 「ん」  攷斗は短く返事して、二人掛けシートの空きスペースにバッグと紙袋を置き、オーダーパネルを操作した。 「どれ?」  向かいに座るひぃなにパネルを見せる。ひぃなは画面を数回押して、注文リストに飲み物を追加した。 「食いもんは?」 「先たのんで~。足りなかったら追加する」 「はーい」  攷斗がひぃなに見せながら食事を選び、自分が食べたいものと、ひぃながいつも注文するものを合わせて数点【カート】に入れた。 「こんなもんかな。追加ある?」 「ううん、だいじょぶ。ありがとー」  その返事を受けて、攷斗が【注文する】のボタンを押す。 「あ」パネルを充電器に戻しながら小さく言って「はい、これ。誕生日おめでとう」マチが広めの紙袋を差し出す。 「わぁ、ありがとう」  袋に印刷されているのは、有名なフラワーショップの名前だ。 「一応、ひなのイメージ伝えて作ってもらったやつだから」 「えー、うれしい。部屋に飾るね」  袋の中から小さなブーケを取り出す。ピンクと白が基調のそれを、ためつすがめつ眺めてみる。ひぃなは嬉しそうにへへーと笑って 「ありがとう」  改めて礼を言った。 「うん」  頬杖をついて微笑む攷斗に 「毎年毎年律義だよね。ありがとね」  ひぃなが何度目かの礼を伝える。 「好きで祝ってんだから気にしないでよ。それより、なんか取って付けたようなもんでごめん。ここんとこちょっと忙しくて……」 「大丈夫なの?」 「うん、さっき終わらせてきたから、もう来年の始めくらいまでは余裕。だから、今度一緒になんか見に行こう」 「えー、いいよ、悪いよ」ブーケを紙袋にしまいながら、「嬉しいよ? お花。あんまりもらう機会ないし」傍らに置きつつ笑顔で返す。  照れながらプレゼント用の花束を買う男性を見ると、思わずほっこりしてしまう。  普段、洒落たことをこともなげにやってのける攷斗のことだから、照れつつオーダーするようなこともなかっただろうが、それでも嬉しいものは嬉しい。 「女子はみんな単純にお花もらうの嬉しいよ」 「そう? なら良かった」 「失礼しまーす」ふすまの向こう側から声が聞こえて、ふすまが空いた。店員が酒とつまみをテーブルの上に置き、ふすまを閉めその場を去った。 「じゃあまぁ」  と攷斗がビールのジョッキを掲げる。 「「おつかれさまー」」  グラスを当てて、仕事終わりの身体にアルコールを流し込んだ。 「んんー、んまいっ」  おっさんみたいな声を上げて、ひぃながグラスをテーブルに置き 「お仕事順調なんだね」  言った。 「んー、まぁ、ぼちぼち?」  人好きしそうな笑顔で攷斗は首をかしげた。
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