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Chapter.3
「えっ! マジで! やった! よし、気が変わらないうちに届出行こう」
攷斗は素晴らしい速さで婚姻関係を結ぶのに必要な手続きを調べていく。
ひぃなは飲食の手をとめ、そんな攷斗をポカンと眺めている。
「婚姻届ーはなんとかなる〜…戸籍謄本……ひなって本籍覚えてる?」
「えっ、うん。実家のまま変えてないけど……」
「じゃあ俺と同じ区だよね。おっけー」
スマホで必要書類などを調べつつ
「婚姻届の保証人誰かいい? すぐ呼び出せる人いる?」
「えっ? いやっ?」
「じゃあ、湖池と社長でいい?」
「えっ? うん。えっ?」
「まだ二人ともどうせ仕事してんでしょ?」
矢継ぎ早に質問を投げかける。
「うん、たぶん……」
ひぃなが退勤するとき、二人は会議室で書類と格闘していた。その時点で定時を少し過ぎていたが、当分目途が立ちそうになかったので、今頃残業の真っ最中だろう。
「じゃあ一旦電話……」
「まっ」手を出して止めて「まって。待って」やっと言葉が追いつく。
「なに?」
「いいの?」
「なにが」
「いいの? 結婚。私と」
脳の処理が追いつかず片言になるひぃなに
「いいから言ったんだけど」
攷斗がキョトンとした顔になる。
「なんで?」
ひぃなの再度の疑問に、意外そうな、それでいて不服そうな顔を一瞬見せて攷斗が黙った。
「なんで? いいの?」
ひぃなとしては至極当然の疑問に
「いいよ。好きだから、ひなのこと」
攷斗は至極当然のように答える。
しかし、ひぃなは信じられないといった顔で固まった。
その反応を見た攷斗も、同じように固まってしまう。
周囲の音がやけに大きく聞こえる。
長いようで短い沈黙のあと、攷斗が大きく息を吸って、
「――…ってのもあるけどー」おどけて見せて「俺もさ、俺んちも片親だし、頼れる兄弟もいないしさ。パートナーいたほうが色々ラクかなーって思ってたんだよね」
取って付けたように続け
「そしたらひながさ、同じようなこと言うから、ひなとなら楽しいかなーって」
破顔した。
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