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Chapter.7
「こんばんはー、お疲れさまです」
ひぃながテナントビルの守衛室内に声をかけた。
「はい、お疲れ様です。お連れさま?」
「はい」
「こんばんは」
「はい、こんばんは。じゃあこちらに必要事項をご記入ください」
「はーい」
言われた攷斗が返事をして、慣れた様子で訪問記録表に来訪日時や氏名を記入する。
その間に、ひぃなは社員証を確認してもらう。
「はい、ありがとうございます。こちらね、帰るときにご返却ください」
必要事項が全て記入されていることを確認して、守衛が攷斗へゲストパスを渡した。
「「ありがとうございます」」
二人で挨拶をしてビル内に入り、奥まで進んでエレベーターに乗る。6階建てビルの5階と6階がひぃなの勤める【プリローダ】のオフィスだ。
「どっちだろ」
「多分会議室にいると思う」
「じゃこっちか」
攷斗が階数ボタンを押すと、エレベーターが動いた。到着したフロアの入口から明かりの点いた一角を見つけて、慣れた足取りでオフィスに入る。
「こんちはー」
先立って歩いていた攷斗が、時間にそぐわない挨拶を室内へ投げかけた。
「あら、棚井。久しぶり。どうしたの? こんな時間に。いるの良くわかったわね」
対応したのは、コーヒーブレイク中の【プリローダ】社長・堀河沙江子だ。
「えぇ、ちょっと……」
と、後方の人影に目線を送った。
「どーも……」
顔を出したひぃなに、堀川が意外そうな顔を見せる。
「あれ? お疲れさま。なに、二人して来るなんて珍しい。棚井が辞めてからは初めてじゃない?」
「いやぁ」
なんと言っていいかわからず、ひぃなは言葉を濁す。
「さっき湖池には電話したんですけど」
「あら。あいつなら会議室にいるわよ? 呼んでこようか?」
「あ、いや。湖池だけじゃなくて、社長にもお願いしたいことがあるんですけど」
「ん? そうなの? なに?」
どうやら堀川は何も聞かされていないようだ。
「そのー…ちょっと……保証人になってほしくて」
「えっ?! いやぁよ! あんたたち借金するほど困ってないでしょ?!」
「いや、カネの話なんてしてないですよ。そーじゃなくて」攷斗が肩から提げたバッグをドサッと手近な椅子の上におろし「重かったー」中から分厚い雑誌を取り出した。「これ。湖池と二人で、保証人になってほしいんです」
「……えっ」
絶句した堀川が机の上に置かれた結婚情報誌をマジマジと眺めて目を丸くして、真偽を確認するようにひぃなを見た。
ひぃなは苦笑しながら、肯定するために首を縦に動かす。
「えー! やだちょっと、ほんとぉ! ソッコー仕事終わらせてくるから座って待ってて! ねー! 湖池ぇ!」
堀河は興奮しながら、湖池が作業しているという会議室に入っていく。
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