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何かを期待して立ち止まってしまう自分が嫌になる。
もう帰ろうと、足を踏み出したときだった。
「あらっ、透瑠くん?」
振り返ると、沙雪が笑いながら手を振っていた。こちらも今日は珍しいスーツ姿だ。ベージュ色のパンツスーツが、沙雪のスタイルの良さを際立たせている。
「今、仕事帰り?」
こくりと頷いて、おつかれさまです、と沙雪に笑いかけた。
「あの……プレゼン、どうでした?」
「うん、ばっちり。あとは果報は寝て待て、かな。実際は寝てらんないけど」
沙雪があはは、と笑いながら長い髪をかきあげた。
「今から皆で飲みに行こっかって話してたんだけど。透瑠くんも一緒にどう?」
「え、俺は……」
行ってもいいのだろうか。社員でもないのに。
「仕事仲間じゃん。遠慮はなしよ」
沙雪が肩を組んでくる。透瑠が、じゃあ、と言いかけて顔を上げた時。
遠くに、朝のスーツ姿の怜が見えた。――そして、怜を囲む複数の女性たち。
「あーあ、捕まってるなあ。あれ時間かかりそうだな〜」
やれやれ、と沙雪がため息をつく。
「誰にでもヘラヘラするからあんなことになんのよ。もうちょい考えればいいのに」
誰にでも……。
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