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今日はアパートの方に帰ろうかと思っていたのだが、怜に断固反対された。
歩いて家に向かおうとしていた透瑠の腕をがっしり掴んできて、ほぼ無理矢理、透瑠の体はメタリックブルーの車に押し込まれた。
「まだキツイでしょ? 俺がいろいろお世話するからっ」
……いろいろお世話って。イヤな予感しかしない。
車の助手席のシートベルトを締める。この席につくのもだいぶ慣れた。まだエアコンの効いていない車内はひんやりとした空気に包まれている。
「……今日は絶対しないからな」
「承知しております……」
ハンドルに突っ伏した腕の隙間から、ものすごく残念そうな声が漏れ出てくる。そういうところ、正直すぎる。
求められることは嬉しい。そしてかまってくれるのも本当はすごく嬉しい。けれど周囲の目も気にせず透瑠ばかり最優先しすぎるのはいかがなものか。
「……あんたは過保護すぎだと思う」
そう言うと、怜はがばっと顔を上げて、心外だとでも言うように目を見開いた。
「そんなことないよ。もう他の誰にも渡せないんだから。俺が責任とらなきゃ」
……ペットじゃあるまいし。なんだか気に食わなくて、怜の得意技である膨れっ面をしてみせる。
「わ。透瑠めっちゃ可愛いんだけど。写真撮っていい?」
「ダメ」
抗議の意が全然伝わらない。
ちぇっ、と元祖膨れっ面を披露しながらこちらを横目で睨む。そのあと急に真面目な顔でのぞきこんできた。
「……透瑠もだよ」
「何が?」
内心どきりとして、腕を組んでそっぽを向いて尋ねる。
「透瑠も、俺をこんなにメロメロにさせた責任とって。――絶対離しちゃダメだからね」
思わず運転席へ視線を投げると、ね、と強烈なウィンクをかましてきた。
ああ、やっぱりこいつには敵わない。たぶん、一生。
そう思うと笑いがこみ上げてきて、透瑠は声を上げて笑ってしまった。
急に笑い出した透瑠に「え? なに?」と不思議そうな顔をしている怜を見て、さらに止まらなくなってしまった。
ちゃんと責任とるよ。一生かけて。
笑いすぎて腹筋が痛くなってきた。訳が分からない、とオロオロしだした最愛のひとに顔を寄せて、透瑠はゆっくりとその唇を塞いだ。
Fin.
ありがとうございました!
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