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ブツブツ言いながらも自前のエプロン姿で食材を運んだり豆の袋を運んだりと動き回っている。いつか、マスターがぎっくり腰で休んだあの日を思い出す。
……あの頃は、怜とこんな関係になれるなんて考えてもいなかった。
ここに来てまだ一年にも満たない。
めまぐるしい日々だった。怜への想いに気づき悩んだ日々。苦しくも、でも穏やかな、充実した日々。
溢れる想いにつきあげられ、透瑠は胸が熱くなった。
「透瑠?」
怜が透瑠の様子に気づき、慌てたように控室に上がりこんできた。
「大丈夫? ごめんね、まだキツイ?」
「ううん……もう平気」
そう言って体を起こそうとすると、怜が背中を支えてくれた。
起きた拍子に目尻に溜まっていた涙がぽろりとこぼれ落ちた。
「透瑠!?」
怜がどうしよう、とまたオロオロしだしたので、
「大丈夫だって。ただ、仕事の前の日はちょっと加減してほしい……だけ」
何を、ということを頭に浮かべるとまた身体が熱くなってしまうので、考えないようにする。
「うん……ごめん。次が休みじゃない日は気をつける」
ちゅ、と軽くキスをされる。それって次が休みの日だったら激しくしますよ、という意味だろうか。
結局、火照る身体をもてあまし、透瑠は「もう少し寝る」と言って怜を追い払った。
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