①「くださいな」怖い話

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①「くださいな」怖い話

「くださいな」 ──くださいな、くださいな。 そう言われて私は振り向いた。 私の視線の高さには何も見えない。少し目線を下ろすと、こちらを見上げて佇む女の子と目が合った。 「なにか言った?」 私が尋ねると、女の子は再び歌うように「くださいなったら、くださいな」と口づさんで両手を差し出してきた。 「なにが欲しいの?」 「小指」と、女の子は感情を何ら込めずにそう言った。私はそれが、とても不気味に思えた。 「あげられないわ」 当然の如く私が答えると、女の子は怒りもせず残念そうに「そう」と俯いた。 「そんなに大事なものなのね?」 女の子が聞いてきたので、私は「ええ」と返した。 「大切なものだから、あげられないわよ」 私が答えると、女の子はしてやったりとばかりに瞳をギラギラと輝かせた。 「だったら、大事なもの以外を全部もらうんだから!」──と、女の子は豹変して飛び掛かってきた。 「きゃあっ!?」 私は驚いたが、必死に抵抗した。 ところが、何と凄まじい力だろう。 子どものものとは思えない素早い動きと腕力で、私は揉みくちゃにされてしまう。 それで──後には私の小指だけが地面に残った。 ◆◆◆ 「なによ、それ。怖い」 私は友人から怪談話を聞かされて思わず顔を顰めた。元々、その手の類い──幽霊とかオバケといったものは得意ではないのに、友人は意気揚々と仕入れたばかりの怪談話を話して聞かせてきた。 正直、迷惑極まりない。 「ねー、怖いでしょー? 私も、初めて聞いた時に怖くて悲鳴を上げちゃったんだからねー!」 友人は感情豊かに大声を上げた。 何をそんなに喜んでいるのか、私にはよく分からなかった。 友人はまるで、最近起こった楽しい話でもするかのようにキャピキャピしながら話していた。 まさかこの後に、私があんな怖い体験をすることになるだなんて、誰が予想できただろう──。
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