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②女の子の怪異
「うぅ……最悪……」
あんな話を聞いたから、夜道が怖くなった。それでも、時には一人で行かねばならない時もあるのである。
学校帰りに夜道を一人で歩いていると──ふと、背筋にヒンヤリと冷たいものを感じた。
何事だろうか。
視線を感じて私は振り向いた。
──目の前に女の子が立っていた。
「くださいな……」
「きゃぁああぁあぁああぁああ!」
私は悲鳴を上げ、腰が抜けて尻餅をついてしまった。それ程の恐怖が込み上げてきていたのである。
「ください……」
「ぎゃぁあああっ! きゃぁああっ!」
足をバタバタと動かし、四つ這いで壁際まで移動する。壁に背中を凭れると、細やかな抵抗とばかりに両足を動かした。
「くだ……」
「ぎゃあぁあぁああっ! ひぃいぃいっ!」
涙が溢れ、鼻水が垂れた。
最早、色気も食い気もお構いなしである。全面で恐怖心をアピールした。
「…………」
「ひぃいぃいいっ!」
身悶えする私に、女の子は遂には口を噤んで何も言わなくなった。どうせ叫び声でかき消されて無駄だろうと悟ったのだろう。
私が静まるまで、女の子は待ってくれるようだ。
「……はぁ……はぁ……」
しばらく経って、ようやく私もパニック状態から落ち着いていったものである。
呼吸を整えていると、ここぞと言うタイミングで女の子は口を開いた。
「くださいな」
──沈黙。
私は叫ばず、冷静にその言葉を聞いていた。
すると、心なしか女の子の顔がパァッと明るくなったような気がした。
私が悲鳴を上げず、最後まで話を聞いてくれたことが余程嬉しかったのだろう。
「……可愛い」
私はそんな女の子に好意を抱いたものである。
よく見れば、例え幽霊であろうとも、可愛らしい女の子ではないか。わざわざ、私が落ち着くまで何も言わずに待ってくれたことも好感度は高い。
「くださいな、くださいな」
鈴の鳴るような凛とした声で、女の子は歌うように言った。なんと心地よい音色だろう。
私は思わず目を瞑り、その歌声に耳を傾けたものである。
「くださいな、くださいなっ。くーださいなっ、くださいなー」
──ああ。可愛らしい声で、こんなにもおねだりをされている。
私はジュルリと口からヨダレを垂らしたものだ。
「…………」
女の子が黙ってしまう。
声が聞こえなくなったので、私は不審に思って目を開けた。
ジト目でこちらを見ている女の子は、どうやら私にドン引きしているようだ。
──幽霊にドン引きされる女の子って、何なのよ。
失礼にも程があるだろう。これではまるで、私が人外みたいではないか──。
「何が欲しいの?」
それが禁句であったのかもしれないが、もう少し女の子とお話したかったので、私は自ら地雷を踏みにいくことにした。
「小指」
女の子は即答する。
ああ。聞いていた話と全く一緒だ──。
まるで、予め答案を知っているテストを受けているように私らウキウキしたものである。
「あげられないわ」
「「そう」」
私は女の子とタイミングを図って、次の言葉を口にした。
「「そんなに大事なも……」のなのね?」
「………」
私がハモるので、女の子は喋りにくそうだ。途中で口を閉じてしまう。
私はジーッと女の子の顔を見詰めた。
「「そんなに……」」
女の子が口を開いたところで、私も口を開く。
「「そんな……」」
女の子が口を閉じると、私も口を閉じた。
そんな読み合いがしばらく続いた。
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