プロローグ 記憶の欠片

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プロローグ 記憶の欠片

━━━今日も、誰かが泣いている。 もう7月も半ばだというのに、梅雨は明ける気配を見せない。 洗濯もろくに出来ない雨の中、青年は大学でサークルのイベントに参加するため電車に揺られていた。 向かうは彼『有原 拓也』の通う大学である『横浜旭大学』だ。 「暑い・・・」 電車を降りた彼は思わず呟く。 長雨による湿度と、夏を迎える日本の容赦ない気候が拓也に襲いかかる。 大学までは歩いて15分。 少し嫌になりながらも歩み始めた時ふと、見たことのある・・・正確にはうっすら記憶にあるキーホルダーが目に入り思わず歩みを止めた。 (あのキャラ、何だっかな?思い出せない・・・) 少し考えているとキーホルダーを鞄に付けている女性と目があった。 自販機で飲み物を買ったのだろう。手にはペットボトルが握られている。 「何かありましたか?」 どうやらキーホルダーをつい凝視していたようだ。 彼女は明らかに不審者を見る目をしている。 それにしても・・・なんと綺麗な女性だろう。 栗色の潺潺(せんせん)とした髪、夏らしい水色のワンピース。 顔立ちも端正だ。有名人に例えるなら桐谷美玲が近いだろうか。 拓也は返事をすることすら忘れ見惚れていた。 「あの・・・?」 再び声をかけられ思わず我に返る。 「・・・あ!すみません。そのカバンのキーホルダー、何のキャラだったか気になってしまって」 「このキーホルダーですか?これは15年くらい前に流行った『チャーミーベリィ』ですよ。好きでずっと大切にしているんです。」 拓也は心を覆っていたモヤモヤが晴れたのか成る程、といった表情になった。 「言われてみれば確かに。懐かしいですね。すみません、どうしても思い出せなくて。」 申し訳なさそうに言うと彼女は少し笑顔を見せながら 「あるあるですね。気持ちわかりますよ。」 なんて可愛らしい笑顔だろう。やはりここでも見惚れていると 「あ、そろそろ電車が来ちゃう。ごめんなさい、失礼しますね。」 とだけ言い駅舎の中へと向かっていった。水色のワンピースに合わせるように水色の傘を持つ背中がやけに目に焼き付いた。 ━━しかしキーホルダー、実は解決していない。 キャラクターは元より、あのキーホルダー自体に見覚えがあるのだ。 しかし上手く思い出せないことが拓也には引っ掛かっていた。 ポケットではスマホが震えていた。
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