被害者遺族捜査権 第1部

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「わたしの古くからの友人で、何かと頼りにしている方なんです」  上泉千津子が言った。 「慎が遺族捜査権の申請をしたいって言い出した時も、どうしましょうって相談したら、いいんじゃないかって言われたので、承知したんですよ」 「こちらにご一緒にお住まいなんですね?」森北が訊いた。「事件当時もですか?」 「いえ、ここに住んでいただくようになったのは、夫が亡くなった後です。一人で会社のことやら子どもたちのことやら、悩みばかりで途方に暮れて、しょっちゅう彼女に相談している内にもういっそ一緒に暮らしてください、とお願いして。かれこれ十年以上になりますかしら」 「彼女と言われましたね」そろそろ何か質問でもしないと格好がつかないと思い、俺も口を挟んだ。「女性なんですね?」 「はい、住乃江リリ先生」 「占星術師なんですよ」慎が付け加えた。  執事の次は占星術師だ。俺は軽く眩暈を覚えた。しかし事前に捜査資料に目を通して知っていたのか、森北は平然としていた。 「えーと、星占いをなさる?」  バカみたいな質問を俺がすると、千津子は真面目な顔で頷いた。 「そうです。星の言葉を人間の言葉に直して、遥かな過去、遥かな未来を見通す力を持っている、とても優れた占星術師なんです。そもそもはわたしの父が頼りにしていたんですけど」 「今日はどちらに?」 「お部屋にいるんじゃないかしら。お呼びしましょうか?」 「いや、後ほどこちらからお部屋に伺ってご挨拶しましょう。その前に、奥さんに事件当夜のことを少し伺ってもいいですか?」 「そうですね……」上泉千津子は眉をひそめた。「十五年経ったとはいえ、いまでも辛い記憶ですの」 「ええ、それは重々」 「その時、リリ先生も一緒でしたから、よろしければ先生から聞いていただけないかしら? それで何かわからないことがあれば補足するということで」  母親は、この遺族捜査に乗り気ではないようだ。慎に翻意させるには、彼女から攻める手もあるかも知れない。そのことを頭の片隅にメモして、俺は、わかりました、と言った。「それじゃ、その占星術師の先生に会う前に、現場になった部屋を見せていただきたいんですが」  千津子は次男の方を向いた。 「じゃあ、あなたご案内してちょうだい。わたしはもう、二度とあの部屋には……」 「はい、お母さん」 「わたしは少し疲れたので、失礼して部屋で休ませていただきますわ。今日は本当に暑くて」上泉千津子は俺と森北に微笑むと、立ち上がった。「それじゃ刑事さん、慎をよろしくご指導くださいね」  立ち上がって千津子を見送ると、俺は立ったままアイスコーヒーを飲み干した。森北は強情に、口もつけていなかった。
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