被害者遺族捜査権 第1部

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 当然、一課に戻るやいなや、猛然と課長に抗議はした。こんな話は聞いてません! 大体なんで私がこんなことを!  萱場一課長は肩をすくめて早口に答えた。聞いたろ、極秘だからぎりぎりまで知らせなかったんだよ、お前を選んだのは優秀だからだ、さっき説明したろ。 「それにさ」課長はにやっと笑って付け加えた。「いまお前、暇じゃねぇか」  それじゃせめて相棒は桜木にしてください、と頼んだが、それも突っぱねられた。「桜木まで持ってかれて、何か事が起きたらどうすんだよ。いつまでも一課が暇とは限らねぇだろ」  すると何ですか、私は犠牲に出来ても、桜木は出来ないって言うんですか、あいつの方が一課にとって重要な戦力だと? 「そんなことは言ってないよ。これはこれで重要事案だ。法務大臣直々のお達しだからな。長官だって張り切ってるし、万一遺族捜査なんて効果ありませんでしたってことになってみろ、俺たちみんなコレだぞ」  課長は自分の首を横にした右手で斬る仕草をしたが、嘘だ。斬られるとしても、俺の首だけだろう。後、森北だ。そのための担当者(いけにえ)なのだ。  いずれにせよ、役所で一旦上まで通った決定事項をひっくり返すことは不可能である。だからこそ連中は、抗議が来そうな場合、本人には知らせず不意打ちで承知させてしまう。  かくして俺は、ついこの間会ったばかりのこの若い女――森北秋紀巡査部長と上泉邸の応接間にいる。そして上泉慎の、キラキラした瞳を前にしている。 「ですがね、上泉さん、ご遺族が自ら捜査に当たれば、いろいろと亡くなられたお父さんのことについて、知りたくないようなことまで耳にするかも知れませんよ」俺は何とかこの若造に翻意を促そうと思っていた。あ、そんなに大変ならやっぱり止めます、と申請を取り下げてくれればベビーシッターはお役御免だ。  だが、案外お坊ちゃんは強情だった。 「それは覚悟しています。って言うか、父が殺されたのって、ぼくがまだ三歳の時なんですよね。だから父のこと、殆ど何も知らなくて。だから捜査に加えていただいて、父のことを聞けたらいいなっていうのもあります」 「そうですかねぇ。とにかく殺人事件が起きている訳ですから、あまりいい話ばかりとは限りませんけどね」 「いい事も悪い事も含めて、ぼくの父なんです」  チャラチャラした外見の割りには、よく考えた上での申請だったらしい。俺は一旦説得を諦めた。実際にとんでもない暴露話が出ればショックを受けるだろうし、その時に再度アタックした方がいい。  その時、部屋の入り口のところで女の声がした。
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