地球色に染まる

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「ああでも、あっちの方向の大きい星は金星だからずっと近いんだよ。地球から約4200万km」  そう言って彼女が指を差した方向には、一際輝く大きな星が輝いていた。あれがおそらく金星だろう。 「さっきの聞いたら十分近く感じるなんて……。宇宙って本当に広い……」 「でしょう? だからね、そう感じる君は、きっと悪い子じゃあないのさ。眠くなる前に早く戻るといい」  ──少し、呆気にとられた。  星の魅力を語りながら、僕の事情を察して帰そうとしていたのだ。そして「悪い子じゃない」と言ってくれたことが、僕には嬉しかった。 「いつでもここに星を見においで。この公園はよく見えるし、星たちも歓迎してくれるはずさ」 「あ、りがとう……ええと、お姉さん?」 「私は星麗(せいら)しいって書くんだ……いや、君は分かんないか。見たところ小学校低学年っぽいし」 「バカにしないでよ。少しは分かるから。 ……僕は流生(るき)。流れるに生きるって書く」 「素敵な名前だね。……ほら、今日はもう帰りな?」  それから僕はこの公園で、星麗という少女と時々会うようになった。もちろん星を見ながら話すので、時間帯は夜だ。  しかし僕が夜に公園に行く日はまちまちなのに、不思議なことに彼女は毎回先に来て、静かに星を眺めていたのだ。 「──なんで!」  ガチャン、と大きな音がリビングに響く。音の発生源は僕だ。  満月が熱を出した。母はさらに付きっきりの状態になり、僕は何日も1人で食事を取ることになった。それによって今までの堪忍袋の尾がとうとう切れたのだ。 「どうしてっ! どうして母さんはいつも満月ばっかり構うの!」 「仕方ないでしょ!? 満月は生まれたばかりよ。何かあったら大変でしょう!?」 「じゃあその間に僕に何かあってもどうでもいいってこと!?」 「っ……それは……」 「──寝る。おやすみ」  一瞬静かになった母に背を向け、早足で部屋に戻る。そして電気を消し、静かに窓から抜け出して走り出した。  ただ悔しかった。僕はいたって健康体だから、母さんに付きっきりで世話されることはほとんど無かった。それなのに満月はずっと母さんを独り占めしていて、それがひたすらに悔しかった。 「おっ、どうしたんだい少年。そんなに走って息が切れ切れだぞ?」 「ハァ、ハァ……っふ……ううううぅ……!」  いつも通りの公園に、いつも通りの星麗。急に感情が溢れて涙が出てしまった。  星麗はしゃがみこみ、僕の目線に合わせる。 「どうしたんだい? 少し落ち着いたら、星を見ながら話してくれないかい?」  そう言って彼女は、泣き続ける僕の頭を撫でた。  母さんより小さいけど暖かい手。僕はいつの間にか泣き止んでいた。
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