地球色に染まる

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「落ち着いたかい?」 「うん……」  ベンチに2人で腰かける。今日は三日月と共に木星や土星も見える日だった。それを眺めながら、僕はポツポツと、星麗に先ほどの出来事を話した。  妹が熱を出したこと。母がさらに付きっきりになったこと。1人の食事は美味しくなかったこと。堪忍袋の尾が切れて母と喧嘩したこと。  星麗はうんうんと頷きながら、静かに話を聞いていた。そして僕が話し終えると、彼女はゆっくりと口を開いた。 「君は、自分の名前の由来を知っているかい?」 「分からない。聞いたこともない」 「聞いてみるといいさ。なんなら君の父さんにでも」 「父さんは単身赴任でいないって……あれ?」  そうだ。父さんは明日帰ってくるって電話していた。ちょうどいい。 「──流生じゃないか! 学校帰りか?」 「父さん!」  翌日の学校の帰り道。父さんは嬉しそうに僕に駆け寄ってきた。そのまま一緒に帰ることになった。 「いやぁ久しぶりだなあ! こうして流生と肩を並べて帰るなんて!」 「感激しすぎだよ父さん。……そうだ、父さんに聞きたいことがあるんだった」 「お、なんだ? 何でも聞いてみなさい。父さんの恋愛遍歴以外だったら何でも答えられるぞ!」 「そういうのいいから。……僕の、名前の由来を教えて欲しいんだ」  父は顔をポカンとさせたかと思うと、ニカッと笑って僕の頭を撫でた。最近よく撫でられるな。 「いやぁ嬉しい限りだ。流生からそれを聞いてくれるとはな。宿題でやるのか?」 「ううん、ただ気になっただけ」 「そうかそうか。──流生(るき)という名前にはな、流星(りゅうせい)という意味も込めているんだ。母さんの高校時代は天文部で、星が好きだったからだ。 星を生という字に変え、『流れるような人生の中に、いくつもの煌めきを持って生きられますように』という意味で流生(るき)となったんだ」  言葉を紡ぐ父さんの顔は穏やかだった。  驚いた。母さんも星が好きだったなんて思いもしなかった。 「じゃあ満月(みつき)は?」 「お、満月も気になるか? たしか満月の日に生まれて、『満月のように堂々としていて、みんなを優しく照らすような子になりますように』……だったはずだ。多分」  父は不安そうに顔を逸らした。 「なんでちょっと曖昧なの?」 「そりゃ生まれたばかりだからな。名前は何年も生きていくうちに、少しずつ意味を持っていくものだからな」 「熟成みたいなもの?」 「それだ! ああ、熟成って聞いたら酒が飲みたくなってきた。早く母さんの料理が食べたいなぁ!」 「う……」  母とはまだ喧嘩したままだ。今朝のご飯は冷蔵庫にラップされていて、母はまだ満月と寝ていたのだ。このまま帰っても肩身が狭いだだろう。 「じ、実は母さんと喧嘩したままなんだ……」 「大丈夫だ。母さんならきっと許してくれるはずだ。なんなら一緒に謝ろうか?」 「ううん、大丈夫。ありがとう父さん」  気付いたら、目の前に家のドアがあった。そこそこ距離はあったはずだが、父と話しているとあっという間だった。 「ただいまー! 帰ったぞ!」 「あら! おかえり父さん。ずいぶん早かったわね」  ガチャリと父さんがドアを開けると、満月を抱いた母が出迎えた。  直前に父の背中に隠れていた僕は、勇気を出してヒョッコリと顔を出した。 「……た、ただいま」  母と目が合う。気まずくてすぐ逸らしてしまったが、母は笑みを浮かべた。 「おかえり。昨日はごめんなさいね」
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