地球色に染まる

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 姉弟設定はともかく、それ以外はとても満足出来るものだった。  展示コーナーでは、惑星の大きさの立体比較や月の映像、宇宙船の展示など。プラネタリウムでは、遠くの星を探索するドキュメンタリーが壮大な音楽と共に流されていた。 「──いやぁ楽しかった!」 「うん。すごいきれいだった」 「楽しんでもらえて何よりだよ」  ニコニコ。ニコニコ。  星麗は気持ち悪いくらいにずっと笑っている。なんだか変だ。 「──ねえ星麗(せいら)」 「……ん? 何かな?」 「何か言おうとしてるよね。さっきからずっと言おうとして迷ってる」  星麗は笑みを止め、びっくりしたような顔で少し笑った。 「……うーん、バレちゃったか」  ──途中から、何かがおかしいと思っていた。  いつも夜の公園にしか現れなかったこと。星の知識が半端ないこと。学校の制服を着ていたこと。 「実は、お別れを言わなきゃならないんだ」  そして星麗という名前が、音読みするとと読めること。 「私、実は精霊なんだ。星の精霊」 「──!」  驚きはしなかった。ああ、やっぱりそうだったんだと納得はした。 「あれ? 反応薄い?」 「なんとなく予想はついてたんだ。星麗は普通の人間じゃないってこと」 「そっか。なら良かった。気味悪がられるかと不安だったんだよ」  彼女は指をひと振りする。  すると目の前には、果てしなく広い闇と、無数の小さな光が現れた。 「これって……!」 「これが星の精霊の能力さ。ここは本物の宇宙。体は守られてるから大丈夫だよ」  無限の暗闇と光。ここはきっと、人間がまだ未到達の、夢幻の領域。想像以上に広い宇宙に立っていることを意識すると、まるで僕自身が透明になっていく感覚があった。 「ここはどこ?」 「ここは太陽系の外側。あの中に太陽があって、地球があるんだ。君に見せたいものがあるんだ。さあ、付いてきて!」  きらきら。きらきら。  景色が流れる。流れ星のように、宇宙を2人で飛んでいく。  いくつもの恒星。その周りのいくつもの惑星。時々飛んで来る彗星。隣で飛ぶ星麗(せいら)も、彗星のように尾を引いていた。   遠くに見える、あの大きな光が太陽だろうか。そしてその近くの青い光は地球だろうか。 「──私ね、ずっと地球に行ってみたかったんだ。星の精霊は宇宙中に散らばっているんだけど、地球は私が見た中で一番きれいだったんだ。精霊の主に頼んでようやく来れた時は、すごく嬉しかった」  星麗は嬉しそうにくるくると回ると、一気にスピードをあげて地球へ向かった。僕もあわてて付いていく。 「ちょっと……! いきなりスピードあげてどうしたの?」 「──ほら見て! ずっとこの景色を流生(るき)にも見せたかったんだ!」  そこで僕が目にしたのは。  どこまでも美しく、そしてどこかで見たことがあるような、青々とした球体がそこにあった。 「私は、初めて見てからこの青が大好きなんだ。私が好きなこの青色は、真っ青でも水色でもない。空色でも、瑠璃色でもない。ぜーんぶ合わさった、地球色なんだよ!」  星麗と目が合う。それで気づいた。彼女の目の色は、目の前の(地球)と同じ色だ。 「君に会えて良かった。地球にいられる期間は短かったけど、とっても楽しい時間を過ごせたよ。ありがとう、流生」  その瞬間、急に強大な何かに引っ張られる感覚を味わった。宇宙にいるはずなのに、まるで空から落ちるかのように、下へ、下へと落ちていく。  おそらく僕の意識は地球へと戻されるのだろう。星麗ともお別れになってしまうのだろう。  僕も、星麗と会えて良かった。きれいな星空に出会えたし、彼女のおかげで家族との距離が縮まったし、こんなにも美しい世界(地球)も見せてくれた。  彼女と出会えたことは、僕の一番の思い出となったのだ。 「──僕も! 君に会えて良かった! 君が見せてくれた世界を、僕は忘れない! ありがとう、星麗!」  気がつくと、僕は天文台の外に1人、立ち尽くしていた。
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