出会い

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出会い

蒸し暑く、ミンミンと煩い蝉の鳴き声で、目を覚ます夏の朝。 そんな日は、いつもあの日のあの人を思い出す。 夏の陽炎の中、白地に薄い水色の模様が入ったワンピースに身を包み、紺の日傘をさし、儚げに微笑む彼女。彼女によく似合うさくら色のネールや小さなけれど自己主張の強いピアスが、僕にはなぜか痛々しく見え、今にも消え入りそうな、泣き笑い見たいな笑顔に、僕は魅せられて動けなくなる。 気持ちを振り払い、彼女に声かけると、さっきまでの儚げが嘘の様に明るい笑顔が返って来る。 「今日はどこに連れて行ってくれるの」明るい声で、彼女は僕に問いかけて来る。 「さあ、どこに行こうか?」行き先は前もって、決めているのに考えるふりをする。 「とにかく、車に乗って」僕が声かけすると頷き、黙って車に乗り込んで来る仕草も何処か上品で、あんなアプリで知り合ったのか、疑問が浮かんで来る。 彼女と知り合ったのは、今流行りの出会い系アプリである。 僕は、恋人が欲しいと言うより、遊び半分で一時期の欲望を消化できたらいいぐらいで、色々な人とやり取りをしていた時に彼女は、引っかかったのだ。 やり取りをしている時に、彼女が真面目な人で、心に傷があるのはすぐに分かった。 僕は、彼女を慰める言葉を沢山送って、彼女の事を心配しているそぶりを見せていたが、その実、下心だけで、彼女を騙そうとしていた。 数日、メールでのやりとりをしただけで、僕を信じて、数週間後には、会う約束をするなんてなんて世間知らずなのだろう。 今思い返しても彼女は、無知で無垢な赤子の様に僕の嘘に簡単に騙されて、僕の誘いに乗った。 アプリでやり取りをして、数週間後 彼女はいつも僕の事を気遣い、初めて会うのも僕の仕事が休みの前の日の夜の8時は過ぎである。 喫茶店で待ち合わせをして、1時間僕は、言葉巧みに話し、彼女の警戒心をとき、次に会う日の約束を取り付けた。 次こそは、彼女をホテルへ誘う計画をたてながら、出会い系アプリで、他の女を探す事にぬかりない。毎日、彼女の機嫌を損ねない様にこまめに電話して、付き合うのなら、体の関係になる事は自然な事であるとさりげなく説得する事にもぬかりは無い。毎日いやらしく無い様に気を付け、僕が彼女に夢中である様に思わせるのは、百戦錬磨の僕には、簡単な事だった。
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