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しっかりと正面を見据えた俺は両腕を大きく広げ叫んだ。
「母ちゃん!!!」
「「はあっ!!?」」
左耳の傷、この匂い、この色と毛並み。群れの中の一頭のメスライオンは、間違いなく俺の育ての親だった。
飛び込んできた母ちゃんを両手で力強く抱き留めたが、勢いでそのまま後ろに転げてしまった。
他のみんなも俺の側にきて確かめるように匂いを嗅いだり舐めたり顔をすりつけてくる。
そうだよ、俺だよ。
「本当に久しぶりだな!」
母ちゃんが腹の辺りに顔を擦り付けてくるのがくすぐったくて、俺は笑いながら懐かしさを噛み締めていた。
「あのう、桜将くん。どういう状況かな?」
あれ、蒼希が急に面白い程よそよそしい。
「桜将さん、キチッと説明してください?」
心花はなんだか楽しそうだな。
「ははっ!俺ね、四歳頃からこの群れで育ったんだ。一番世話してくれたのがかーちゃん、はははっくすぐってえ!!」
「桜将ってただ者じゃないと思ってたけど、ライオンに育てられたなんてね~」
「ね。でも、四歳までは?」
やべ、気が緩んでうっかり四歳頃とか言ってんじゃん俺。
「はは!間違えた!産まれた時からここにいるっつーの」
「ええ~!なにそれ、ほんとは?」
心花の質問責めにあう前にと、群れのボスの背中に飛び乗ってたてがみに顔を埋める。するとすぐさまボスは風を切って走り出した。昔よくこうやって遊んだんだ。
「ちょちょっ、桜将!置いてかないで!」
「あたし達はご飯じゃないって、ちゃんと言ってよ~!!?」
「大丈夫だって!心配すんな!」
俺は人間で、家族はじーちゃんとライオン達。誰がなんと言おうとそれが俺の事実。そこだけは誰にも崩されたくない自分の宝なんだ。
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