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夢
熟月山は少し標高の高い場所にあり、地平線近くの大きな色の濃い月をなんの邪魔もなく見る事ができる。
そのオレンジ色の月が熟れた果実のように見える事から熟月山と呼ばれるようになったそうだ。
宴が終わり自宅へ帰ってから風音が体調を崩してしまい、僕は約束の時間ギリギリに展望台へ駆け込んだ。
「遅くなってごめん!!」
息を切らしながら謝罪するとベンチに座っている心花がはにかんだ。
「遅くないよ?今、時間ちょうどだし」
「え、あ、そっか」
「蒼希はいつも約束の時間より早く来てみんなを待ってるもんね」
展望台といっても丸太で作られた柵の前に丸太で作られたベンチがあるだけだが眺めは最高。僕はドキドキとうるさい心臓の音と戦いながら心花の横に並んで座った。
すっかり陽は落ちていて、夜景と呼ぶには控えめな明かりがポツポツと村に灯っている。この時間の主役は月と星たち。
色々な場所で色々な景色を見てきたけど、夜空の綺麗さは円村がピカイチだ。
「今日、凄く緊張しちゃった」
「うん、僕も。特に挨拶の時とか…」
「私は挨拶のあとの方が緊張してたよ」
挨拶の後?はて?
「え?挨拶の後って、飲んで食べて…?」
「うん、蒼希の隣でお酒飲んでご飯食べて、凄く緊張した」
それを聞いた僕はますます心臓の音が大きくなって、心花の顔を直視できなくなっていた。
「蒼希は、これからどうするの?」
「え?これからって、仕事とか?」
「うん。夢とかないの?」
意外な質問に心臓が少し落ち着きを取り戻す。
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